皇位継承制度の検討で、議論の分岐点は何か

これって…

「男系」「伝統」をどう考えるか―制度を支える価値観の違いが判断の分かれ道です。


焦点は、男系・伝統を「維持する」か「維持しなくてもよい」か

 皇位継承制度の議論の焦点は、「男系」を維持するか、「男系」を維持しなくてもよいかの選択です。言い換えれば、伝統的な「男系」を皇位継承の本質とみるか、「男系」ではなく「世襲」が本質とみて男系にこだわらないか、という違いです。
 議論の背景には、「男系にこだわると、皇位の継承そのものが困難になる」という現実認識があります。秋篠宮家の悠仁親王は皇室で41年ぶりに誕生した男子でしたが、今後皇室に男子が生まれるという確かな見通しはありません。男系にこだわらない立場は、皇位継承を安定的することに価値を置いています。
 その点からすると、2つの考え方は、「伝統の継承」を維持するか、「より安定的な継承」を重視するかの対立ともいえます。
 この対立はなかなか折り合えません。いま国会で話し合われているのは「皇族数の確保」ということになっています。皇位継承制度そのものを論点にすると出口が見えにくいため、「皇族数の確保」という形にして議論が進められています。


男系維持派は何を守ろうとしているのか

 男系にこだわる立場は、男系継承は皇室の伝統であり、日本の国柄「国体」(日本という国の文化の連続性)であるとみています。男系継承を維持しないと、▽皇室の正当性が失わる、▽皇統が変わる、▽日本の国柄が変わる、―などと主張しています。古代からこれまで、皇位の継承はすべて男系でつながり、例外はないとされており、これを本質とみるわけです。百地章さんや櫻井よしこさん、八木秀治さんらが主張しています。

八木秀治さん「男系は確立した原理」
「125 代一貫して男系継承であった事実の重みでございます。これまで一度の例外もなく、一貫して男系で継承されてきた。そのこと自体、もはや確立した原理というべきではないかと思います。(中略)これを現代人の判断で簡単に変えていいものかという疑問が生じます。」

(八木秀治さん 2005年5月31日、皇室典範に関する有識者会議 第6回 での意見陳述)
第6回配付資料(HTML)
第6回配付資料(PDF)


女系を容認する・安定性を重視する立場は何を見ているのか

 男系にこだわらず、女系(男系でない)の継承も認める(女系も認める)立場は、より安定的な継承を重視しています。男系にこだわると、皇位継承そのものが危うくなるという現状認識があるからです。現状では、若い世代の皇位継承資格者は悠仁親王しかいません。皇位継承資格者を増やして、皇位の存続を安定させようと考えるわけです。
 そうすると「男系でなくていいのか?」という声が聞こえてきますが、この場合、皇位継承の本質は「男系」でなく、「世襲」(男女を問わない)と考えます。笠原英彦さんや所功さんの考えはこの方向に添っています。
 この考えを進めるには、伝統を保ちつつ制度を続けるにはどれほどの変化を受け入れるか――それが論点になります。

所功さん「典範の規制を緩和するほかない」
「歴史に学びながらも現実的に我々が取り得る対策は、あまりにも制約の強い皇室典範の規制を緩和するほかないと思われます。(中略)万一に備える措置として、男系女子皇族の即位を認め、更にその子孫による女系継承も、制度的には可能性を開いておく必要があると存じます」

(所功さん 2005年6月8日、皇室典範に関する有識者会議(第7回)での意見陳述)
第7回配付資料(HTML)
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二つの立場で、制度設計はどう変わってくるのか

 男系維持にこだわる立場(男系維持派)と、継承の存続の安定性を重視して女系継承(男系でない継承)を容認する立場(女系容認派)とでは、制度の設計が変わってきます。男系維持派は「男系」という血統を重視するので、かつて皇族だった「旧宮家」の子孫を皇族にさせようとしています。女系容認派は、現行制度では結婚すると皇室を離れる皇族女子(愛子内親王、佳子内親王)に、結婚しても皇室にとどまってもらう制度をまず作っておこうとしています。

 2022年の有識者会議は、皇族数の確保策として①女性皇族が結婚後も皇室に残る案、②旧宮家の子孫を皇族とする案、を打ち出しました。①は安定重視派の意向に沿った案、②は男系重視派の意向に沿った案と言えるでしょう。有識者会議は双方に配慮していますが、この2つを同時並行で進める中でさえ、意見の相違が出てきています。

 皇族女子に、結婚後も皇室にとどまってもらうことは、大方の賛同が得られています。皇族数が増えるのはよいことだからです。しかし、結婚相手と子どもを皇族にするかどうかは意見が分かれています。男系重視派は「夫や子どもは皇族にしない」を主張します。子どもが即位して「女系天皇」になるのを恐れているからです。「安定重視派」は、「夫や子どもを皇族にする」を主張しています。皇位の継承の問題を離れて、同じ家族の中に皇族と皇族でない人が同居するのはよくないという考えです。

 制度として両案を併存させようとするやりとりの中にも、現代の皇位継承論の難しさが表れています。


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用語最小辞典

  • 男系:父系で皇統に連なること。
  • 女系:母系で皇統に連なること。
  • 女性天皇:女性の天皇(歴史上は存在)。
  • 女系天皇:母方が天皇につながる天皇。
  • 旧宮家:戦後、皇籍を離脱したかつての宮家(皇族)。
  • 女性宮家:女性皇族が結婚後も皇籍を保持する制度案。

雑談中……

モンチ:なかなか意見対立が折り合わない。なので議論が進まない。
カミーユ:かつては女性の天皇もいたんでしょ?
モンチ:いたよ。聖徳太子と一緒にやってた推古天皇とか、百人一首の持統天皇とかいるよね。8人いた。
カミーユ:だったら女性に天皇をやってもらっても伝統に反しないんじゃないの?
モンチ:女性の天皇はいいんだ。いま議論になっているのは、「女系」の天皇なんだ。お母さんが天皇でも、お父さんが天皇じゃない天皇は認めない、っていうのが「男系維持派」の考え方だ。
カミーユ:以前にいた女性天皇は子どもがいなかったの?
モンチ:8人の女性天皇は、旦那さんが天皇だった場合以外は、子孫が天皇になった例がないんだ。
カミーユ:ヨーロッパの王室には女王がいて、女王の子どもも王様になっているよね。
モンチ:男系重視派は、日本の皇室とヨーロッパの王室とはあり方が違うという考え方だ。確かにそれは一理あるんだよね。
カミーユ:こないだ国連の女性差別撤廃委員会が、男系男子だけってのは男女平等に反するって意見したよね。憲法でも男女平等って定めているけど。
モンチ:皇室は憲法の「法の下の平等」原則の例外とされているんだよね。そもそも「天皇」ってのが、国民の例外的な特別な存在だから。
カミーユ:ともかくみんなが幸せになって、いやな思いをする人がいないようになったらいいね。
モンチ:そのとおり!それを第一に考えなくちゃね。読んでくださっているあなたはどう思いますか?
みなさんが元気で幸せでありますように!