皇室制度の現在の議論を基に皇室典範を改正するとしたら、どのような条文になるか

皇室制度の現在の議論を基に皇室典範を改正するとしたら、どのような条文になるか

次のように想定することができます

皇族女子の婚姻後の身分保持、旧宮家子孫の養子、皇室会議の関与を中心に、現行典範の見直しが想定されます。

条文 現在の条文 想定改正条文
第9条(養子) 天皇及び皇族は、養子をすることができない。 天皇及び皇族は、養子をすることができない。
2 前項の規定にかかわらず、皇統に属する男系男子であって皇室会議の議を経た者については、法律の定めるところにより、皇族はこれを養子とすることができる。
第10条(婚姻) 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。 立后及び皇族の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第12条(皇族女子の婚姻後の身分) 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。 (A案:夫と子を皇族とする)
皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻した後も、皇族の身分を保持することができる。
2 前項の場合においては、その婚姻について皇室会議の議を経ることを要する。
3 第一項の婚姻に係る配偶者及び子は、法律の定めるところにより、皇族の身分を取得する。

(B案:夫と子を皇族としない)
皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻した後も、皇族の身分を保持することができる。
2 前項の場合においては、その婚姻について皇室会議の議を経ることを要する。
3 第一項の場合において、当該皇族女子の配偶者及び子は、皇族の身分を取得しない。

この想定条文案は、具体的な条文の形を基に、皇族とは、皇族の婚姻とは、皇族の養子とは、そして皇室会議とは何かを考えるための土台とすることを目的としています。 制度の輪郭を見やすくするためのもので、立法技術的にはさらに整える余地があります。

皇室典範|e-Gov

附帯決議に基づく報告を受けた立法府の対応|衆議院

現在の議論から想定される制度変更の注目点は

現在の立法府での議論を踏まえて考えられる制度変更の方向には、次のような注目点があると思われます。

皇族女子が婚姻後も皇室に残ることができるようにする

A案:配偶者と子も皇族とする

この案では、皇族女子本人が婚姻後も皇族の身分を保持するだけでなく、その配偶者と子にも皇族の身分を与えます。

  • 家族の中で身分が分かれる不自然さを避けやすく、制度としては簡明で整えやすい面があります。また、家族単位で皇室の活動を支えることも想定しやすくなります。
  • ただ、皇族範囲そのものが広がることになります。
  • 現行の皇室典範は、皇族の男女で異なる仕組みを採っていますので、皇族の婚姻・身位・身分取得の考え方全体を組み直す必要が出てきます。
  • また、皇族女子と一般男性との間の子に皇族身分を与えることの意味は大きく、現行の皇位継承原則との関係が強く意識されます。直ちに皇位継承資格が生じるわけではないとしても、制度全体としては女系天皇につながる可能性をどう考えるか、という政治的・制度的な争点が避けられません。

B案:配偶者と子は皇族にしない

この案では、皇族女子本人は婚姻後も皇族の身分を保持しますが、その配偶者と子には皇族の身分を与えません。

  • 制度変更を最小限にとどめたい立場や、女系天皇につながる制度変更を避けたい立場は、この案に近い考え方をとります。
  • ただし、この案を採ると、婚姻後の家族の中で本人だけが皇族で、配偶者・子は一般国民という構造になります。したがって、戸籍、氏、家族財産、公的活動の担い方などについて、現行法のままではおさまらない問題が生じ、整理する必要があります。皇室会議の現行審議事項にも、このような家族内身分分離を前提とした事項は含まれていません。

皇族女子の婚姻後における皇族身分の保持/離脱の選択

皇族女子については、婚姻後に皇族の身分を保持するか、皇籍を離脱するかを選択できるようにする制度も想定されます

  • この場合、どの時点で、どのような手続によって意思を確認し、確定させるのかを別途明確化する必要があります。

旧宮家の子孫に限って養子を認める

この案では、現行の第9条が定める全面的な養子禁止を改め、旧宮家の子孫など、一定範囲の者に限って養子を認めます。立法府の議論では、これを「皇統に属する男系男子を養子に迎えること」という形で整理しています。

  • 「皇統に属する男系男子」を法令の文言としてどこまで明確に書けるのかは別問題です。現行典範の条文には、そのような範囲を画する定義規定はありません。対象者の範囲・認定方法・意思確認の手続などを別途明確化する必要があります。
  • また、現在は一般の国民として生活している人に皇族身分を与えることの妥当性をどう考えるのかが、大きな問題になります。
  • そもそも、その制度を現実に受ける意思を持つ対象者が存在するのか、また、そのことを確認することが法改正の前提ではないか、という問題があります。対象者の存在や、その意思をどのように確認するのかは、なお検討を要する論点です。

皇室会議が判断に関与する

以上のどの案をとる場合でも、一定の公的判断主体が必要になると考えられます。そのため、皇室会議の関与を広げる方向が想定されます。現行法でも、婚姻や身分離脱などに皇室会議が関与しているので、ここを中核に据えるのが自然でしょう。

  • 現行の皇室会議は、すでに重い意味を持っています。ここに、女性皇族の婚姻後身分保持や、限定的な養子の許可を加えると、皇室会議は単なる確認機関ではなく、制度の分岐点を判断する機関になります。それにより、皇室会議の裁量の重さや、判断の政治性をどう考えるか、という問題が生じ得ます。

現代の法体系との整合性

これらの制度変更は、皇室典範という特別法の中で組み立てることになりますが、現代の法体系との整合性を別に考える必要があります。

  • たとえば、婚姻後も本人だけが皇族として残る案は、家族法の一般原理との接続が問題になります。また、配偶者・子にも皇族身分を与える案は、皇族の範囲をどこまで広げるのかという問題になります。これに対し、養子により皇族の身分を与える案は、皇族の範囲の問題であると同時に、平等原則との関係をあらためて問うことになります。
  • また、養子の限定解禁は、民法上の養子制度と皇室典範上の特則との関係を整理しなければなりません。 現行の皇室典範が、第9条・第10条・第12条をかなり単純な形で置いているのに対し、それを変更する場合は、背後にある法体系との接続を、より明示的に考えざるをえない点に難しさがあります。