皇位継承儀式と大嘗祭は、皇位継承に宗教的・伝統的な意味が伴うことを示しますが、現行制度では、即位の礼は国事行為、大嘗祭は皇室行事として整理されています
2005年6月30日の皇室典範に関する有識者会議第8回では、資料3「皇位の継承に係わる儀式等(大嘗祭を中心に)について」が配布されました。
この記事は、この資料をもとに、皇位継承儀式と大嘗祭が皇位継承論で何を意味するのかを整理します。
なぜ、この資料が第8回で出されたのか
皇位継承を考えるとき、血統や継承順位だけでなく、皇位継承に伴う儀式の意味も問題になるため、有識者会議は、皇位継承儀式、とくに大嘗祭の法的位置づけと政府説明を確認したのだと考えられます。
第6回・第7回の識者ヒアリングでは、男系、女系、皇統、象徴天皇制、宗教的権威、カリスマ原理などが論じられ、とくに山折哲雄教授は、皇位継承を支えるものとして、血統原理とカリスマ原理を挙げていました。その文脈からも、大嘗祭は皇位継承に伴う宗教的・象徴的な意味を確認する論点になります。
旧皇室典範と現行皇室典範では、継承儀式の何が違うのか
旧皇室典範と現行皇室典範の規定を対比すると、現行皇室典範には大嘗祭の規定が置かれていません。
旧皇室典範では、天皇が崩じたときは皇嗣がただちに践祚し、神器を承けるとされていました。また、即位の礼と大嘗祭は京都で行うと規定されていました。
これに対し、現行皇室典範では、天皇が崩じたときは皇嗣がただちに即位するとされ、皇位の継承があったときは即位の礼を行うと規定されています。大嘗祭の規定が置かれていません。
なぜ現行皇室典範に大嘗祭は規定されなかったのか
大嘗祭が現行皇室典範に規定されなかった理由について、政府は「信仰」「宗教的な面」から説明しています。
昭和21年の皇室典範案審議では、大嘗祭には信仰に関する点が多分に含まれるため、皇室典範の中に規定することは不適当ではないかと説明されました。
また、平成2年の国会答弁でも、現行皇室典範は国事行為としての即位の礼を予定したものであり、大嘗祭には宗教的な面があるため、規定を設けず、将来の慎重な検討に委ねたものと説明されています。
つまり、現行制度では、即位の礼と大嘗祭は同じ皇位継承関連儀式でありながら、法的な位置づけが分けられています。
大嘗祭は、どのような儀式として位置づけられたのか
国事行為ではない皇室行事だが、公的性格を持つとされました。
大嘗祭は、稲作農業を中心とした日本社会に古くから伝わる収穫儀礼に根ざした儀式とされています。
天皇が即位後はじめて、大嘗宮において、新穀を皇祖と天神地祇に供え、自らも召し上がり、安寧と五穀豊穣を感謝するとともに、国家・国民のために安寧と五穀豊穣を祈念する儀式です。
大嘗祭は、皇位の継承があったときには必ず挙行すべきものとされ、皇室の長い伝統を受け継いだ、一世に一度の重要な皇位継承儀式だと整理されています。
ただし、大嘗祭には宗教上の儀式としての性格があることを否定できないため、政府は、国がその内容に立ち入ることにはなじまず、国事行為として行うことは困難だと説明しました。
そのため、現行制度では、即位の礼は国事行為として行われるのに対し、大嘗祭は皇室行事として整理されています。一方で、大嘗祭は、皇位の世襲制に伴う一世に一度の重要な伝統的皇位継承儀式であるため、公的性格を持ち、費用を宮廷費から支出することが相当とされました。
大嘗祭は、伝統・宗教性・憲法上の位置づけの接点にある
大嘗祭は、皇位継承に伴う重要な伝統的儀式ですが、宗教的性格を持つため、現行憲法のもとでの位置づけが問題になります。
政府は、大嘗祭に皇位継承に伴う公的な意味があるとする一方で、宗教上の儀式としての性格を否定できないとし、皇位の世襲制をとる憲法の下において、重要な儀式として公的性格を認め、宮廷費から支出することが相当だと整理しました。
皇位の継承は、次の天皇が即位するという制度上の問題だけではありません。即位の礼や大嘗祭のような儀式を通じて、伝統的・宗教的・象徴的な意味も伴います。
大嘗祭は、その意味が、伝統・宗教性・憲法上の位置づけと交わる儀式です。この点が、皇位継承を論じる際の重要な手がかりになります。
女性天皇・女系天皇の議論とどう関係するか
象徴天皇として、どのような伝統的・宗教的意味が必要かという観点からです。
皇位継承儀式、とくに大嘗祭の位置づけを確認することは、女性天皇・女系天皇の議論と関係します。
なぜなら、女性天皇や女系天皇を認めるかどうかを考えるとき、血統や継承順位だけではなく、天皇が即位し、皇位継承儀式を行い、象徴天皇として受け入れられるために、どのような伝統的・宗教的意味が必要なのかも問題となります。
その意味は、男系でなければ保てないのか。
女性天皇でも保てるのか。
女系天皇でも保てるのか。
こうした問いの前提として、大嘗祭の位置づけが確認されたと考えられます。
まとめるとどうなるか
皇位継承儀式と大嘗祭は、皇位継承に宗教的・伝統的な意味が伴うことを示しています。
旧皇室典範では、即位の礼と大嘗祭が規定されていましたが、現行皇室典範では、即位の礼だけが規定され、大嘗祭は規定されていません。それは、大嘗祭に宗教的性格があるためです。
現行制度では、即位の礼は国事行為として行われ、大嘗祭は皇室行事として行われました。ただし、大嘗祭は、皇位の世襲制に伴う一世に一度の重要な伝統的皇位継承儀式であるため、公的性格があり、宮廷費から支出することが相当とされました。
大嘗祭は、皇位継承論における伝統、宗教性、憲法の接点にあります。
2005年の有識者会議でこの資料が示された意味は、皇位継承を、血統や順位だけでなく、皇位継承儀式の伝統的・宗教的意味も含めて考えるためだったといえます。それは、女性天皇・女系天皇の議論とも関係するものでした。
