皇后の役割とは

短くいうと

 おおまかに、①皇室で天皇などを支える役割、②皇后としての象徴的な役割 ③歴史的には天皇に替わる役割―があると思われます。

少し長くいうと

園部逸夫さんはもう少し細かく分けている。

象徴の地位にあるのは天皇お一方であるが、その配偶者である皇后には象徴である天皇を公私にわたりお支えする役割が期待され、さらに女性皇族としての単独での公的な役割も象徴に連なる皇族として一身で担うことが期待されている。また女性皇族の最上位にある方として皇室内の様々な事柄について相談を受けられ、あるいはとりまとめをされるお立場でもあると考えられる。

また、そのほかの配偶者としての女性皇族もお立場の違いによる大きな差はあるがそれぞれのお立場に対して国民から期待が寄せられている。

現行の象徴天皇制度に至るまでの皇室の歴史を振り返ると、前近代においては現在の象徴制度下での役割に相当する幅広い役割を天皇の配偶者に制度上期待されていたとは考え難いが、皇室の伝統として社会事業や皇室文化に関わるご活動をなさる例が見られた。また象徴制度には反するが政治的に重要な役割を持つ例もあり、古代の皇后の中には、敏達(びだつ)天皇の皇后が即位し推古天皇となり、舒明天皇の皇后が即位し皇極天皇となるなど皇后から女性天皇として即位した例もあった。また天武天皇の皇后鸕野讃良(うののさらら)皇女(後の持統天皇)や聖武天皇の皇后藤原安宿媛(ふじわらのあすかべひめ)など政治的に重要な地位にあった例も少なからずあり皇室を政治的に支える力を持っていた例も見られた。

皇后の役割に新たな面が加わったのが明治時代であった。明治以降の皇后・皇太后は政治に直接携わることはないが、外国交際の役割が新たに加わり、また宮廷内のみならず社会事業、福祉・医療、女子教育、各種産業などの分野での奨励・振興、さらには災害時のご対応など社会に向けての役割を、伝統を大切にされつつ時代の変化に応じて積極的に果たされるようになった。

こうした歴史を経た象徴天皇制度の下での皇后の役割は一層幅広いものがあるが、象徴制度の観点からその役割を要約して示すと次のようになる。

(ア)天皇を公的側面で支える役割

これには、天皇の象徴としてのお務め(国事行為、宮中行事、行幸、外国交際、伝統文化の継承など)に当たり天皇をお支えになるお立場から天皇にお供されるなどご一緒になさる場合と、象徴のお務めを補うためのご活動を単独で行われる場合(日本赤十字社関係など)とがあり、天皇の象徴像や象徴としての役割に広がりをもたらす意義を果たしていると言えよう。

(イ)天皇を私的側面で支える役割

天皇のご家族の一員としての役割である。この役割は、私的側面としての位置づけであるが、実際は皇室はご家族自体が公的存在であり、しかも象徴(=天皇)を中心とするご家族として国民の理想の家族であってほしいという期待を担うご家族の一員としての役割であることから、その意味では公的な意味が大きい役割であるといえる。

(ウ)皇后個人のご活動を通じた役割

皇后個人のご関心によるご活動を通じての役割もある。例えば、学問・芸術やスポーツなどに関わるご活動などを通じて果たされる役割が、これに該当すると考えられる。

これらのご活動は、本来は個人のお立場でのご活動であるが、国民の目に触れる機会がある場合、それにより結果として国民の象徴像形成に影響が及ぶこととなり、その意味で公的な意味を持たざるを得ないご活動として、皇后にとっての一つの役割という性格をも併せ持つといえよう。

皇后あるいはこれに準ずる女性皇族方は、この(ア)〜(ウ)の役割を国民から期待されるお立場にあるが、こうした現行制度下での役割は、明治憲法下では天皇の国家的役割が明確でありそれに応じて天皇を支える仕組みができていたこと、天皇と皇后との役割の分担がなされていたこと、また皇后を支える職が独立していたことなどに比べても、はるかに大変であることは想像に難くない。

また、時代の要請による役割の変化にどのように具体的な形で応えていくかなどの課題もあり、さらに様々なメディアが発達し影響力を持つ中で、実際のご活動に当たっては、第三者には想像もつかないほどの大変な努力を要するものではないかと考えられる。

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