女性皇族の婚姻後の身分保持は、本人だけを皇族に残すのか、配偶者や子も皇族とするのかによって、皇位継承資格の拡大に接続し得るかどうかが変わるため、議論の分岐点になっています
女性皇族の婚姻後の身分保持とは、内親王・女王が天皇・皇族以外の者と婚姻した後も、皇族の身分を保持する制度を設ける案です。
現行制度では、女性皇族は、天皇・皇族以外の者と婚姻すると皇族の身分を離れます。
そのため、この案は、皇族数の減少を抑えるための方策として議論されています。
ただし、問題は、女性皇族本人を皇族に残すかどうかだけではありません。
婚姻した女性皇族の配偶者や子にも皇族の身分を与えるのかが、大きな争点になります。
配偶者や子を皇族としない立場は、女性皇族の子が皇族として制度内に入れば、将来、女系天皇を認める議論につながることを警戒します。
一方で、配偶者や子も皇族とする、または少なくとも両案を検討すべきだとする立場は、女性皇族本人だけを皇族に残し、配偶者や子を一般国民のままとする制度には、家族としての身分関係や生活実態に不自然さがあると見ます。
つまり、女性皇族の婚姻後の身分保持は、単なる皇族数確保策ではありません。
本人だけを皇族に残すのか、配偶者や子も皇族とするのかで、この案は、限定的な皇族数確保策にも、女系皇族の位置づけを問う制度案にもなります。
女性皇族案についての各党・各会派意見整理
皇族数確保のための第1案「女性皇族の婚姻後の皇族身分保持」についての各党・各会派意見整理
配偶者・子の身分をめぐる全体会議
配偶者や子を皇族としない立場は、将来の女系天皇論への接続を警戒している
この立場は、女性皇族本人が皇族として公的活動を続けることは認めても、その配偶者や子を皇族にすることには慎重です。
その理由の一つは、女性皇族の子が皇族として制度内に入ると、将来、女系天皇を認める議論につながるおそれがあるという考え方です。
2025年2月17日の全体会議では、日本維新の会から、女性皇族の婚姻後の身分保持案について、男系による皇統継承をなし崩し的に消滅させ、皇位継承資格を女系に拡大しかねないという懸念の声があることに十分留意すべきであり、配偶者と子は皇族の身分を持たないとすることが適切である、という趣旨の意見が示されました。
また、自由民主党からも、女性皇族が婚姻後も皇族として残ることについては賛成しつつ、配偶者と子については皇族の身分を有することがない、という見解が示されました。
もちろん、配偶者や子を皇族にすることが、ただちに女性天皇・女系天皇を認めることを意味するわけではありません。
しかし、女系の皇族が制度上存在することになれば、将来、皇位継承資格者が乏しくなったときに、その皇族にも皇位継承資格を認めるべきだという議論が強まる可能性があります。
この立場から見れば、配偶者や子を皇族にすることは、女系天皇への直接の制度改正ではなくても、将来の資格拡大につながる「入口」になり得ます。
そのため、配偶者や子に皇族の身分を与えないことで、女系天皇論につながる道をあらかじめ閉じようとするのです。
配偶者や子を皇族とする、または両案を検討すべきだとする立場は、家族としての身分関係や生活実態の不自然さを問題にしている
女性皇族本人だけを皇族に残し、配偶者や子を一般国民のままとする制度には、さまざまな難しさが指摘されています。
同じ家族の中で、母は皇族であり、配偶者や子は一般国民であるという関係になります。
その場合、呼称、身分登録、住居、生活費、財産関係、公的活動、政治活動や宗教活動の自由など、さまざまな場面で制度上の説明が必要になります。
2025年2月17日の全体会議では、立憲民主党から、配偶者や子を皇族とする案としない案の長所・短所を指摘し、双方が合意に向けて両案を徹底的に議論する必要がある、という趣旨の意見が示されました。
また、配偶者や子を皇族としない主張については、事実上の不都合と憲法上の課題を指摘したと説明されています。
同じ会議では、配偶者や子を皇族としても、現行皇室典範が皇位継承資格を男系男子と定めている以上、直ちに女系天皇につながるものではない、という趣旨の意見も示されました。
この立場は、皇位継承資格の問題だけから出てくるものではありません。
家族としての生活実態と制度をどう整合させるか、皇族と一般国民が同じ家族にいることをどう説明するか、という問題意識からも出てきます。
配偶者・子の身分をめぐる議論
配偶者や子を皇族としない制度には、実務上・憲法上の説明が必要になる
配偶者や子を皇族としない制度を採る場合、身分、生活、財産、基本的人権などに関する説明が必要になります。
女性皇族本人だけを皇族に残す制度では、配偶者や子は一般国民であり続けることになります。
その場合、女性皇族本人は皇統譜に登録され、配偶者や子は戸籍に登録されることになります。
また、皇室用財産である宮邸に、一般国民である配偶者や子がどのように居住するのかという問題も出てきます。
生活費や財産関係をどう整理するかも問題になります。
さらに、配偶者や子が一般国民である以上、政治活動や宗教活動、職業選択などの自由をどこまで制約できるのかという問題もあります。
ここでいう憲法上の課題とは、たとえば、同じ家族の中に皇族と一般国民という身分の異なる者がいること、配偶者や子が一般国民として参政権や政治活動の自由などを持ち続けることが、憲法14条や24条との関係でどう整理されるのか、という問題です。
2025年2月17日の全体会議では、この点について、内閣法制局や衆参法制局から説明が行われました。
内閣法制局は、一般論として、女性皇族の配偶者と子が皇族の身分を有しない制度を検討しても、憲法14条との関係で問題が生じるものとは認識していないと説明しました。
また、憲法24条についても、参政権や政治活動の自由など婚姻や家族と関係しない権利に差異が生じる状態になったとしても、基本的には憲法24条1項の適用が問題となるものではない、という考え方が示されました。
衆議院法制局は、女性皇族の配偶者に皇族の身分を与えないことについて、憲法24条や14条との関係で疑義を指摘する専門家の論考があることを認めつつ、一般的な考え方をベースにすると、憲法上の問題は生じないとする見解が有力であるように思われる、と整理しました。
この説明は、配偶者や子を皇族としない案を制度として構成できる、という方向の説明です。
ただし、同時に、この論点が憲法や家族のあり方に関わるため、単純な皇族数確保策では済まないことも示しています。
皇位継承制度とはどう接続するのか
女性皇族案は、皇族数確保策であると同時に、皇位継承資格の拡大に進むかどうかの分岐点でもあります。
女性皇族本人だけを皇族に残す案は、皇位継承資格の拡大を避けながら、皇族数の減少を抑えようとする案です。
この場合、女性皇族本人は皇族として活動を続けますが、その配偶者や子は皇族ではありません。
そのため、将来の皇位継承資格者の範囲を大きく変えることにはなりにくいと考えられます。
一方、配偶者や子にも皇族の身分を与えるなら、女性皇族の子を皇室制度の中に置くことになります。
この場合、女系の皇族をどう扱うかという問題を避けることは難しくなります。
その子に皇位継承資格を認めるのか、認めないのか。
認めないとすれば、皇族でありながら皇位継承資格を持たない存在をどのように説明するのか。
認めるとすれば、女系天皇を制度上認める方向に進むのか。
このように、女性皇族案は、皇族数確保策として始まっていても、皇位継承制度との接続を避けきれません。
まとめるとどうなるか
女性皇族の婚姻後の身分保持は、皇族数確保策として議論されている案です。
現行制度では、女性皇族が婚姻すると皇族の身分を離れるため、この案は皇族数の減少を抑える効果を持ちます。
しかし、女性皇族本人だけを皇族に残すのか、配偶者や子も皇族とするのかによって、制度の意味は大きく変わります。
配偶者や子を皇族としない立場は、将来の女系天皇論への接続を警戒します。
一方で、配偶者や子も皇族とする、または両案を検討すべきだとする立場には、家族としての身分関係や生活実態の不自然さを避けたいという問題意識があります。
2025年2月17日の全体会議では、この対立が、各党・各会派の意見交換、内閣法制局や衆参法制局の説明を通じて、憲法上・法制上の論点としても扱われました。
その意味で、女性皇族の婚姻後の身分保持は、皇族数確保策であると同時に、皇位継承資格の拡大に進むかどうかの分岐点でもあるといえます。
