2012有識者ヒアリングは、何を目的として、何を残したのか

2012有識者ヒアリングは、女性皇族の婚姻後身分と皇室活動維持を検討した政府手続であり、女性皇族本人の身分保持を前面化しつつ、配偶者・子の身分、旧宮家・養子制度、安定的な皇位継承の不安を未結論点として残しました

2012年の「皇室制度に関する有識者ヒアリング」は、内閣官房皇室典範改正準備室が実施した意見聴取です。

このヒアリングは、女性皇族が一般男性と婚姻した場合に皇族の身分を離れる現行制度のもとで、将来、皇室の御活動をどのように安定的に維持するかを検討するために行われました。

政府は、この検討を、皇位継承問題とは切り離し、緊急性の高い皇室活動の維持と女性皇族の婚姻後の身分の問題に絞ると位置づけました。

2005年有識者会議は、安定的な皇位継承を正面から扱い、女子や女系の皇族にも皇位継承資格を広げる方向を示しました。

これに対し、2012有識者ヒアリングは、皇位継承問題をいったん脇に置き、女性皇族本人の婚姻後の身分保持と、皇室活動の維持を中心に制度案を整理する政府手続でした。

女性皇族本人の身分保持という制度案を前面化しましたが、配偶者・子の身分、旧宮家・養子制度、安定的な皇位継承の不安を未結論点として残しました。

どのような危機認識から、何に検討対象を絞ったのか

政府は、皇族数の減少により皇室活動の維持が困難になるという危機認識から、皇位継承問題ではなく、女性皇族の婚姻後身分と皇室活動維持に検討対象を絞りました。

現行の皇室典範12条は、皇族女子が天皇および皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れると定めています。

2012年当時、未婚の女性皇族が複数いました。2011年10月には、秋篠宮家の長女である眞子内親王が20歳となっていました。

この人たちが一般男性との婚姻により順次皇籍を離脱すれば、皇族数は減少します。

女性皇族の婚姻後の身分という問題は、抽象的な将来問題ではなく、近い将来の制度課題として具体性を帯びていました。

皇族数の減少により、天皇皇后の活動を支える皇族、摂政就任資格を有する皇族、国事行為の代行が可能な皇族が、将来大きく減るおそれがあると見られました。

とりわけ、悠仁親王の世代において、天皇の活動を支える皇族がほとんどいなくなる可能性があることが、政府側の問題意識となりました。

ただし、対策の検討では、皇位継承制度の在り方の問題に影響しないことが基本的な視点とされ、男系男子による皇位継承を定める皇室典範1条には触れないことが大前提とされました。

旧11宮家の男系男子孫を、養子や特別立法によって皇籍復帰させる案についても、皇位継承資格の議論につながるため、今回の検討対象とはしないことが適当だと整理されました。

これは、皇位継承の在り方について国民の中に多様な意見があることを踏まえ、今回の検討を皇室活動維持の問題に限定する整理でした。

2012有識者ヒアリングは、皇位継承の本丸には踏み込まないまま、皇室活動維持のための制度案を検討する手続でした。

誰から、どのような論点について意見を聴いたのか

2012有識者ヒアリングでは、6回にわたり12人の識者から、象徴天皇制度、皇室活動、女性皇族の身分保持、配偶者・子の身分、旧宮家・養子制度などについて意見を聴きました。

ヒアリングは、2012年2月29日から7月5日まで、全6回行われました。

対象となった識者は、今谷明、田原総一朗、山内昌之、大石眞、櫻井よしこ、百地章、市村真一、笠原英彦、小田部雄次、島善高、所功、八木秀次の12人です。

質問事項は、象徴天皇制度と皇室活動の意義、皇族数減少による皇室活動維持の困難、女性皇族に婚姻後も皇族身分を保持してもらう方策、配偶者と子の身分、皇室典範改正の進め方、婚姻への配慮などでした。

この12人の意見は一様ではありませんでした。

女性宮家に前向きな意見もあれば、一般民間人配偶者型の女性宮家に反対または慎重な意見もありました。

配偶者と子を皇族とすべきかについても、意見は分かれました。

旧宮家、養子制度、内親王・女王の称号保持をめぐる見方も分岐しました。

そのため、ヒアリングは、単に女性宮家への賛否を確認した場ではなく、皇室活動維持をめぐる複数の制度設計の分岐を浮かび上がらせる場となりました。

何を整理し、何を結論に近づけたのか

2012有識者ヒアリングと『論点整理』は、女性皇族本人の婚姻後身分保持を制度改正の中心論点として前面化し、Ⅰ―A案、Ⅰ―B案、Ⅱ案を整理しました。

2012年10月5日、内閣官房は『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』を公表しました。

この文書は、有識者ヒアリングを通じて、論点や考えられる方策がおおむね出そろったとして、政府側が議論を整理したものです。

『論点整理』は、具体的な方策を大きく二つに分けました。

第一は、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案です。

第二は、女性皇族に皇籍離脱後も皇室活動を支援してもらうことを可能とする案です。

さらに、第一の案は、配偶者および子に皇族としての身分を付与するかどうかで二つに分かれました。

そのため、『論点整理』の中心は、次の三案です。

内容 位置づけ
Ⅰ―A案 女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、配偶者と子にも皇族身分を付与する 家族全体が皇族となる。制度として簡明だが、歴史上の前例はない
Ⅰ―B案 女性皇族は皇族身分を保持するが、配偶者と子には皇族身分を付与しない 女系天皇への接続を避けやすいが、家族内で身分差が生じる
Ⅱ案 女性皇族は皇籍離脱後、国家公務員など公的立場で皇室活動を支援する 皇族数減少には歯止めをかけられないが、外から活動支援は可能

この三案の整理によって、2012有識者ヒアリングは、単なる意見聴取にとどまらず、その後の皇室制度論議の基本的な分岐を形にしました。

また、『論点整理』は、象徴天皇制度の下で、皇族数の減少にも一定の歯止めをかけ、皇室活動の維持を確かなものとするためには、女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族身分を保持し得る制度改正について検討を進めるべきだとしました。

つまり、2012年の政府手続の成果は、女性皇族本人の婚姻後身分保持を、制度改正の中心論点として前面化したことでした。

Ⅰ―A案とⅠ―B案のどちらを採るかは決まりませんでしたが、女性皇族本人が婚姻後も皇室に残り、皇室活動を担うという方向は、2012年の『論点整理』において、はっきり前面に出されました。

何が未結論点として残り、なぜ残ったのか

2012有識者ヒアリングは、女性皇族本人の身分保持を前面化した一方、配偶者・子の身分、旧宮家・養子制度、安定的な皇位継承の不安を未結論点として残しました。

第一に、配偶者と子の身分です。

Ⅰ―A案は、配偶者と子にも皇族身分を付与する案です。

Ⅰ―B案は、配偶者と子には皇族身分を付与しない案です。

『論点整理』は、この二案の長所と短所を整理しましたが、どちらを採るべきかは決めませんでした。

第二に、皇位継承問題との関係です。

政府は、皇室典範1条には触れないことを大前提にしました。

しかし、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、その配偶者や子の身分をどう扱うかは、女系天皇への接続可能性をめぐる議論を避けられませんでした。

第三に、旧宮家・養子制度の扱いです。

旧11宮家男系男子孫の皇籍復帰案や、養子制度の見直し案は、有識者ヒアリングで示されました。

しかし、『論点整理』では、これらの案は皇位継承資格の議論につながるため、今回の検討対象とはしないことが適当だと整理されました。

第四に、安定的な皇位継承の不安そのものです。

『論点整理』は、今回の検討では皇室活動維持に絞ったとしながらも、文書の末尾で、悠仁親王以外に次世代の皇位継承資格者がいないことに触れています。

そして、安定的な皇位継承を確保するという意味では、将来の不安が解消されているわけではないと述べました。

こうした未結論点が残った背景には、皇位継承問題とは切り離すという、2012年の政府手続そのものの限定がありました。

議論を皇室活動維持に絞ったからこそ、女性皇族本人の身分保持は前面化されました。

その一方で、配偶者・子の身分、旧宮家・養子制度、安定的な皇位継承の不安は、皇位継承問題と深く関わるため、最終的な結論には至らなかったのです。

現在の議論から見ると、未結論点はどう残っているのか

現在の議論から見ると、女性皇族本人の身分保持は主要な方向として残り、配偶者・子の身分と旧宮家・養子制度は、2012年の未結論点のまま主要争点として残っています。

現在の皇族数確保をめぐる議論でも、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案は、重要な柱となっています。

これは、2012年の『論点整理』が前面化した論点の基底部が、その後も引き継がれてきたということです。

一方で、配偶者と子を皇族とするのか、皇族としないのかは、なお争点として残っています。

また、旧宮家男系男子を養子として皇族に迎える案も、皇族数確保のもう一つの柱として議論されています。

この構図は、2012年に既に見えていました。

現在の議論は、2012年の未結論点をすでに解消した流れというより、その未結論点を主要争点として残したまま、制度設計を続けているものとして見ることができます。

まとめるとどうなるか

2012有識者ヒアリングは、女性皇族の婚姻後の身分と皇室活動の維持という緊急性の高い問題に絞って行われた、政府の意見聴取でした。

その検討は、皇位継承問題とは切り離し、皇室典範1条には触れないことを大前提にしていました。

ヒアリングでは、12人の識者から、女性宮家、配偶者・子の身分、旧宮家、養子制度、尊称保持、婚姻環境への配慮などについて意見が出されました。

それを踏まえた『論点整理』は、女性皇族本人が婚姻後も皇族身分を保持する案を中心に、Ⅰ―A案、Ⅰ―B案、Ⅱ案を整理しました。

この手続は、女性皇族本人の身分保持という方向を制度改正の中心に置きました。

しかし、配偶者・子の身分をどうするか、皇位継承問題とどこまで切り分けられるか、旧宮家・養子制度をどう扱うか、安定的な皇位継承の不安をどうするかは、未結論点として残しました。

現在の議論でも、女性皇族本人の身分保持は重要な柱として残る一方、配偶者・子の身分や旧宮家・養子制度は主要争点として残っています。

2012有識者ヒアリングは、皇室活動維持という現実の危機に対応するために、女性皇族本人の身分保持を前面化しつつ、その背後にある皇位継承と皇族数確保の問題を、未結論点として将来に残した政府手続でした。

残された論点は、現在に続いています。

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