2012有識者ヒアリングでは、天皇、皇室の何が問われたのか

2012有識者ヒアリングでは、女性宮家の賛否だけでなく、皇室活動の維持、皇位継承との切り分け、配偶者・子の身分、旧宮家・養子・称号保持という複数の制度案が問われました

2012年の「皇室制度に関する有識者ヒアリング」は、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する場合の制度のあり方を検討するために行われました。

しかし、12人の意見を並べて読むと、問われていたのは、単に「女性宮家に賛成か反対か」ではありませんでした。

そこでは、皇室活動をだれが支えるのか、宮家をどう維持するのか、皇位継承問題とどこまで切り分けられるのか、配偶者と子をどう位置づけるのか、旧宮家・養子・称号保持をどう扱うのかが、同時に問われていました。

このpostでは、12人の意見を細かく再説明するのではなく、2012有識者ヒアリングを読むための地図として整理します。

12人の意見を個別に読む

2012有識者ヒアリングで意見を述べた12人については、それぞれの意見を個別postでも読むことができます。

このページで全体の見取り図を確認したうえで、関心のある人から読むと、女性宮家、皇室活動、皇位継承、旧宮家・養子案をめぐる分岐が見えやすくなります。

12人の意見は、どの軸で読むと見通せるのか

2012有識者ヒアリングの意見は、次の6本の軸で読むと見通しやすくなります。

第一に、象徴天皇制度と皇室活動をどう見るか。

第二に、何を危機と見たか。

第三に、女性宮家を認めるか。

第四に、女性宮家と皇位継承問題を切り離せると見るか。

第五に、女性皇族の配偶者と子をどう扱うか。

第六に、旧宮家、養子、称号保持をどう扱うか。

この6本の軸を通すと、12人の意見は、ばらばらな発言の集まりではなく、いくつかの制度設計の分岐として見えてきます。

まず、大きく見ると、12人の意見は次のように整理できます。

類型主な人物女性宮家への姿勢皇位継承との関係
前向き・推進今谷、田原、山内、市村皇室活動維持のため、女性皇族の身分保持や女性宮家を認める方向皇位継承問題とは切り分ける、または将来課題とする
条件付き・調整大石、笠原、小田部、所認めるが、配偶者・子、尊称、皇族数、将来課題を細かく分ける制度設計によって切り分ける、または慎重に接続を管理する
反対・慎重櫻井、百地、島、八木一般民間人配偶者型の女性宮家には反対または慎重女系天皇、男系継承、宮家の本来機能と切り離せないと見る

ただし、この分類は便宜的なものです。同じ「前向き」でも配偶者と子の扱いは分かれ、同じ「反対・慎重」でも、旧宮家、養子、称号保持の組み合わせは異なります。

そのため、以下では、この概観を出発点に、6本の軸ごとに少しずつ拡大して見ます。

軸1 象徴天皇制度と皇室活動をどう見るか

第一の軸は、象徴天皇制度と皇室活動をどう見るかです。

見方主な人物中心にある言葉
歴史的連続性として見る今谷、田原、島長い歴史、権威と権力の分離、日本文化の核心
戦後象徴天皇制の実践として見る山内、笠原、小田部民主主義との調和、国民を励ます活動、社会の伝統と文化
立憲君主制・憲法上の制度として見る大石、市村国の尊厳的要素、君主・王族の役割
祈り・皇統の連続性として見る櫻井、所、八木祈り、皇位の安定的継承、男系継承

今谷明教授は、象徴天皇制を、戦後に突然生まれたものではなく、長い歴史をもつ日本の君主制のあり方が戦後に復活したものとして説明しました。

田原総一朗さんは、象徴天皇制を、日本の歴史の中で長く続いてきた権威と権力の分離のあり方として肯定しました。

山内昌之教授は、象徴天皇制を、民主主義との調和の中で昭和天皇と現天皇が実践によって育ててきた制度として説明しました。

大石眞教授は、天皇と皇族の活動を、国の尊厳的要素として評価しました。

櫻井よしこさんは、皇室を祈る存在、日本の精神的支柱として位置づけました。

笠原英彦教授は、皇室の御活動が国民を励まし、社会秩序の安定に大きく寄与していると評価しました。

小田部雄次教授は、戦後皇室を、政治・軍事・宗教の権力者としてではなく、社会の伝統と文化の中心として国民に支持されてきたものと見ました。

島善高教授は、皇室が日本文化の核心に深く根を下ろしており、天皇が国と国民のために祈る事実が皇室存続の根本だと述べました。

所功教授は、皇室活動を、日本社会の安心と安定、国際社会からの信頼と敬愛に結びつけました。

八木秀次教授は、皇室活動そのものよりも、皇位継承の原理と皇統の維持を前面に出しました。

ここには、祈り、権威と権力の分離、立憲君主制、国の尊厳的要素、社会秩序の安定、文化の核心といった、皇室を理解する言葉の違いが現れています。

軸2 何を危機と見たか

第二の軸は、何を危機と見たかです。

危機の見方主な人物問題の焦点
皇室活動の維持が難しくなる大石、笠原、小田部皇族女子の婚姻離脱により活動の担い手が減る
悠仁親王を支える体制が弱くなる田原、山内、八木将来、若い皇族が不足する
宮家が断絶する市村、島、百地宮家の維持・創設、皇位継承権者の確保
皇位継承の安定に関わる所、八木、百地皇位継承の原理、男系継承、長期的な制度構想

多くの識者は、皇族数の減少を危機と見ました。

ただし、その危機の意味は同じではありません。

田原総一朗さんや山内昌之教授は、将来、悠仁親王を支える若い皇族がいなくなるおそれを重視しました。

大石眞教授、笠原英彦教授、小田部雄次教授は、皇族女子が婚姻により皇族の身分を離れることで、皇室活動の維持が難しくなることを問題にしました。

市村真一教授は、宮家がなくなることを、立憲君主制の根幹を揺るがす事態として見ました。

所功教授は、皇室活動の維持だけでなく、より重い目的として皇位の安定的継承を可能にする全体構想が必要だと述べました。

百地章教授、島善高教授、八木秀次教授は、皇族数の問題を、女性宮家ではなく、旧宮家、男系男子、養子制度などと結びつけて考えました。

つまり、同じ皇族数減少でも、公務負担の問題として見るのか、宮家断絶の問題として見るのか、悠仁親王を支える体制の問題として見るのか、皇位継承の安定の問題として見るのかで、制度案は分かれていきます。

軸3 女性宮家を認めるか

第三の軸は、女性宮家を認めるかです。

類型主な人物見方
前向き・賛成今谷、田原、山内、市村、笠原、小田部、所皇室活動維持のため、女性皇族の身分保持や女性宮家を検討する
法的整理型大石「身分保持」を宮家創設と尊称保持に分けて考える
反対・慎重櫻井、百地、島、八木女系天皇への接続、宮家の本来機能、旧宮家・養子・称号保持を重視する

女性宮家に前向きだったのは、今谷明教授、田原総一朗さん、山内昌之教授、市村真一教授、笠原英彦教授、小田部雄次教授、所功教授です。

ただし、この人たちの意見も一枚岩ではありません。

今谷教授は、小規模な女性宮家と、配偶者の准皇族的待遇を示しました。

田原さんは、配偶者を皇族に準ずる扱いとし、子も宮家を継ぐことが望ましいと述べました。

山内教授は、女性宮家を女系天皇の容認ではなく、将来の選択肢を広げるための基盤づくりとして位置づけました。

市村教授は、内親王・女王を当主とする宮家創設を緊急方策として提案しました。

笠原教授は、皇族女子の身分保持には賛成しつつ、配偶者と子は皇族としない案を示しました。

小田部教授も、皇族女子の身分保持には賛成しつつ、女系天皇への危惧が強いなら配偶者と子は皇族としない方がよいと述べました。

所教授は、女性宮家の設立・相続に大筋賛成し、入夫は皇族となるが皇位継承資格は認められないと整理しました。

一方、櫻井よしこさん、百地章教授、八木秀次教授は、一般民間人との婚姻を前提とする女性宮家には反対しました。

島善高教授も、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持するには、天皇または皇族と婚姻する以外に方策はないと見て、一般民間人配偶者による女性宮家創設には慎重でした。

大石眞教授は、単純な賛否よりも、「皇族の身分を保持する」という言葉の意味を、宮家を立てる趣旨と尊称を認める趣旨に分けて整理しました。

軸4 皇位継承問題と切り離せるか

第四の軸は、女性宮家と皇位継承問題を切り離せると見るかです。

立場主な人物見方
切り離す、または将来課題とする山内、笠原、小田部、市村女性宮家を皇室活動維持の緊急方策として扱う
制度設計で調整する大石、所宮家、尊称、入夫、将来の皇位継承を分けて整理する
切り離せない櫻井、百地、八木配偶者・子の身分を通じて女系天皇問題に接続すると見る
旧宮家・養子へ軸を移す女性皇族本人より、旧宮家男系男子・養子制度を重視する

これは、2012有識者ヒアリングの最大の分岐です。

山内昌之教授は、女性宮家の創設は女系天皇を認める議論ではなく、将来の選択肢を広げる基盤づくりだと整理しました。

笠原英彦教授は、皇族女子の身分保持には賛成しつつ、皇位継承問題とは切り離すべきだと述べました。

小田部雄次教授も、今回の議論では皇位継承問題に触れないことを前提にし、配偶者と子を皇族としない案を示しました。

市村真一教授は、女性宮家を緊急方策とし、旧宮家復帰や養子制度、皇位継承順位の再検討などは中期・長期の課題として分けました。

これに対し、櫻井よしこさん、百地章教授、八木秀次教授は、女性宮家創設と皇位継承問題は切り離せないと見ました。

女性宮家を創設すれば、配偶者や子の身分をどうするかが問題となり、将来の女系天皇につながる可能性があると考えたからです。

大石眞教授と所功教授は、その中間に位置します。

大石教授は、宮家創設と尊称保持を分けることで、制度ごとの帰結を整理しました。

所教授は、女性宮家に大筋賛成しながらも、皇位の安定的継承をより重い目的として視野に入れました。

つまり、2012ヒアリングでは、「皇室活動維持のための制度」として女性宮家を考える立場と、「それは必ず皇位継承問題に及ぶ」と見る立場が鋭く分かれました。

軸5 配偶者と子をどう扱うか

第五の軸は、女性皇族の配偶者と子をどう扱うかです。

主な人物内容
准皇族・準皇族的扱い今谷、田原配偶者を皇族に準じて扱う
配偶者・子も皇族とする方向田原、大石、所宮家として続けるなら家族も皇族と見る
配偶者・子は皇族としない笠原、小田部、八木女系天皇への接続を避ける
一般民間人配偶者型に慎重櫻井、百地、島女性宮家創設そのもの、または民間人配偶者の皇族化に慎重

女性宮家をめぐる制度設計は、ここで具体化します。

配偶者を准皇族的、または皇族に準ずる扱いとする案は、今谷明教授や田原総一朗さんに見られます。

配偶者と子も皇族とする方向を示したのは、田原さん、大石眞教授、所功教授です。

ただし、所教授は、入夫は皇族となるが皇位継承資格は認めないと整理しました。

配偶者と子は皇族としない案を示したのは、笠原英彦教授、小田部雄次教授、八木秀次教授です。

この案では、女性皇族本人の活動継続を重視しつつ、一般民間人男性が皇族になることや、女系天皇への接続を避けようとします。

島善高教授は、一般民間人配偶者による女性宮家には慎重で、旧宮家男系男子を皇族にした後、その皇族男子と内親王・女王が婚姻する形を考えました。

大石教授の整理は、この軸で重要です。

大石教授は、宮家を立てるなら配偶者と子も皇族として処遇することが望ましいが、尊称を認めるだけなら一代限りが自然だと述べました。

配偶者と子の扱いは、女性宮家を一代限りにするのか、宮家として継続させるのか、皇位継承問題に接続するのかを左右する、制度設計の核心でした。

軸6 旧宮家・養子・称号保持をどう扱うか

第六の軸は、旧宮家、養子、称号保持をどう扱うかです。

方策主な人物位置づけ
旧宮家・養子を積極的に使う櫻井、百地、島、八木女性宮家に代わる皇族数確保策として重視する
中期・長期課題として検討する市村、所緊急策とは分け、時間をかけて検討する
旧皇族復帰に慎重・疑問小田部血筋の遠さ、本人意思、国庫負担、国民感情を問題にする
称号保持・外から支える案大石、島、所、八木皇族身分とは別に、元皇族・称号・役職で支える

女性宮家に反対または慎重な論者は、しばしば旧宮家や養子制度を重視しました。

櫻井よしこさんは、皇室典範9条を改正して養子を可能にし、旧皇族の皇族復帰を考えるべきだと述べました。

百地章教授は、皇族数確保には旧11宮家の男系男子孫への皇籍付与を検討すべきだと述べました。

島善高教授は、旧11宮家の復帰、旧宮家男系男子の皇籍取得、養子制度の導入を提案しました。

八木秀次教授は、旧宮家の男系男子孫による皇族身分の取得と新宮家創設を、皇族数確保の本質的解決策として提案しました。

一方、市村真一教授と所功教授は、旧宮家や養子制度を中期・長期の検討課題として扱いました。

小田部雄次教授は、旧皇族家の末裔の皇族復帰について、血筋の遠さ、本人の意思、住居や土地、国庫負担、国民感情などから疑問が多いと見ました。

称号保持や外から支える案も、重要な分岐です。

大石眞教授は、皇族の出自を示す尊称を認める趣旨を、宮家創設とは別に整理しました。

島善高教授は、皇籍離脱後も内親王・女王の称号を用い、宮内庁参与職などで皇室関連の役割を果たす案を示しました。

所功教授は、皇籍離脱後の内親王・女王称号保持には慎重でしたが、元内親王・元女王が皇室を外から支える公的任務と待遇を検討することには意味があると述べました。

八木秀次教授は、女性宮家を創設しなくても、内親王・女王の称号継続と予算措置によって皇室活動を支えてもらえばよいと述べました。

2012ヒアリングは、制度設計の分岐を浮かび上がらせた

2012有識者ヒアリングには、思想や価値観の違いがあります。

皇室を祈りの存在として見るのか、立憲君主制の制度として見るのか、国の尊厳的要素として見るのか、皇統の連続性を支える存在として見るのか。

その違いは、たしかに議論の基層にあります。

しかし、2012ヒアリングで現実に問われたのは、その思想の違いを、どのような制度設計として扱うかでした。

皇室活動を維持するために女性宮家を認めるのか。

女性宮家を認めるとして、配偶者と子を皇族にするのか。

配偶者と子を皇族にしない場合、家族の身分や活動をどう扱うのか。

女性宮家を認めない場合、旧宮家、養子、称号保持、予算措置によって代替できるのか。

皇位継承問題と切り離すのか、それとも切り離せないと見るのか。

こうした問いが、12人の意見の中で交差しました。

現在の議論から見ると、2012ヒアリングはどう見えるか

現在の議論から振り返ると、2012有識者ヒアリングの意味は、さらに見えやすくなります。

2012年のヒアリングでは、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持すること、女性宮家を設けること、配偶者や子を皇族とすること、旧宮家や養子制度をどう扱うことができるかが、かなり広い幅をもって論じられました。

現在に至るその後の議論では、このうち、女性皇族本人が婚姻後も皇室に残り、皇室活動を担うという方向は、比較的共有されるようになってきました。

この意味では、2012年のヒアリングで示された論点のうち、一つの基底部は、現在まで育ってきたと見ることができます。

しかし、それで問題が単純に解けたわけではありません。

2012年の12人の意見には、最初から複雑な分岐がありました。

女性皇族本人が皇室に残るとしても、配偶者と子を皇族とするのか。

配偶者と子を皇族としないなら、家族の身分や活動をどう位置づけるのか。

女性宮家を設けることは、皇位継承問題と切り離せるのか。

旧宮家男系男子、養子制度、内親王・女王の称号保持をどう扱うのか。

これらの分岐は、その後の議論で消えたわけではありません。

ただし、現在の議論では、争点の置き方が少し変わっています。

女性皇族本人が婚姻後も皇族の身分を保持することについては、賛同が広がっています。

一方で、配偶者と子を皇族とするのか、旧宮家男系男子を養子として皇族に迎えるのかは、なお意見が分かれる論点として残っています。

つまり、2012有識者ヒアリングは、現在の議論から見ると、単なる過去の意見聴取ではありません。

女性皇族の身分保持という方向を前面に出しつつ、その背後にある制度設計の分岐を、かなり早い段階で浮かび上がらせた場でした。

ただし、2012ヒアリングという政府手続が何を目的とし、何を結論に近づけ、何を未決論点として残したのかは、別に見る必要があります。

ここではまず、12人の意見を読むための地図として、制度設計の分岐を確認しました。

まとめるとどうなるか

2012有識者ヒアリングは、女性宮家の賛否だけを確認した場ではありませんでした。

そこでは、皇室活動をだれが支えるのか、宮家をどう維持するのか、皇位継承問題とどこまで切り分けられるのか、配偶者と子をどう位置づけるのか、旧宮家・養子・称号保持をどう扱うのかが問われました。

12人の意見は、象徴天皇制度、危機認識、女性宮家、皇位継承との関係、配偶者・子の身分、旧宮家・養子・称号保持という6本の軸で読むと見通しやすくなります。

この整理から見えてくるのは、2012年の議論が、単なる女性宮家賛否ではなく、皇室活動と宮家維持をどう制度化するかをめぐる分岐だったということです。

つまり、2012有識者ヒアリングは、思想や価値観の違いを背景にしながら、それを現実の皇室典範改正や制度設計へどう落とし込むかを問うた場でした。

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