所功教授は、女性宮家の設立・相続に大筋賛成しつつ、皇位の安定的継承、旧宮家子孫の検討、入夫の皇族化、称号保持への慎重論を含む総合的な制度設計を示しました
所功教授は、2012年7月5日の第6回「皇室制度に関する有識者ヒアリング」で、京都産業大学名誉教授、モラロジー研究所教授として意見を述べました。
所教授の発言は、大きく四つに分けられます。
第一は、皇室活動の意義と、皇位継承の安定です。
所教授は、今上天皇を中心に、皇后、内廷、宮家の皇族が協力して行っている皇室活動は、日本社会に安心と安定をもたらし、国際社会からの信頼と敬愛の大きな要因になっていると評価しました。
ただし、皇室活動の維持だけでなく、より重い大きな目的は、皇位の安定的継承を可能にすることだと述べました。
第二は、女性宮家への大筋賛成です。
所教授は、女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持してもらう方策に大筋で賛成しました。
現行皇室典範のままでは、皇族女子が次々に皇室から離れ、宮家が早晩維持できなくなると考えたからです。
第三は、女性宮家の制度設計です。
所教授は、女性宮家の範囲を、内親王だけでなく女王にも広げ、長系・長子を優先しつつ、本人の意向や当代の事情を考慮し、皇室会議の議により辞退できる運用を提案しました。
また、女性宮家では、皇族女子が当主となり、結婚する男性は入夫として皇族になるが、当主にはならず、皇位継承資格も認められないと整理しました。
第四は、称号保持への慎重論です。
所教授は、皇籍を離脱した後も内親王・女王の称号を尊称として用いる案には慎重でした。
皇族と国民の区別が曖昧になるおそれがあるからです。
一方で、元内親王や元女王が、皇室の多様な活動を外から支え助けるための公的な任務と待遇を検討することには意味があると述べました。
第6回有識者ヒアリング議事録
所功配付資料
どの質問事項に対応する発言だったのか
所功教授の発言は、質問事項全体に対応していますが、中心は「2.今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて」「3.皇室の御活動維持の方策について」「4.女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとする場合の制度のあり方について」です。
また、皇室活動の意義を、社会の安心と安定、国際社会からの信頼と敬愛に結びつけているため、「1.象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について」にも対応しています。
特徴は、皇室活動の維持だけを見ず、皇位の安定的継承、宮家の歴史、旧宮家子孫、女性宮家の相続ルール、入夫の扱い、称号保持の是非まで、全体を見渡している点です。
皇室活動と皇位継承をどう関係づけたのか
皇室活動の維持は重要だが、より重い目的は皇位の安定的継承を可能にすることだと述べました。
所教授は、現在の皇室活動を高く評価しました。
天皇、皇后、内廷、宮家の皇族が協力して、多種多様な活動を誠心誠意務めている。
その活動は、日本社会に安心と安定をもたらし、国際社会からの信頼と敬愛を得る大きな要因になっていると見ました。
ただし、所教授は、今回の議論を単に皇室活動の維持だけで完結させませんでした。
より重い大きな目的は、皇位の安定的継承を可能にすることです。
その関連から、皇族たちの協力による皇室活動の維持も考えるべきだと述べました。
つまり、皇室活動維持と皇位継承安定を別々に見るのではなく、全体的な構想と長期的な取組の中で考える必要があるという立場です。
現行皇室典範をどう見たのか
現行皇室典範は、皇庶子の継承権を否認し、養子を禁止し、皇族女子が皇室から離れていくため、将来の危機を避けにくいと見ました。
所教授は、戦後の皇室典範について、明治の皇室典範と同様に厳しい制約を設けているだけでなく、皇庶子の継承権も否認していると述べました。
そのため、男性の宮家が減少し、皇族女子も次々に皇室から離れていけば、これまでのような皇室活動を維持することは難しくなります。
また、三笠宮家の例を挙げ、男子が成人しても、早世、病没、独身などによって、宮家が将来絶家となり得ることを示しました。
このような事態は、65年前には予想が難しかったかもしれないが、今後は想定外の事態も含めて万全の対策を立てるべきだとしました。
皇位継承について、何を述べたのか
当面は男系男子継承を維持しつつ、将来的には女子・母系の可能性も開く必要があると述べました。
所教授は、皇位継承者は皇統に属する皇族でなければならず、正統な血統と明確な身分が根本要件だと述べました。
現在は、皇統に属する男系男子が三代先までいるため、皇室典範1条は当面現行のままでよいと考えました。
しかし、将来に絶対ないとは言えない事態を考えれば、将来的な改定を忘れてはならないとも述べました。
その際には、歴代天皇がすべて男系であり、ほとんど男子であった歴史を重視する必要があります。
一方で、古代にも近世にも8方10代の女性天皇がいたこと、大宝令制以来「女帝の子」も親王・内親王と認められてきたことも軽視してはならないとしました。
このため、所教授の立場は、当面の男系男子継承維持と、将来的な女子・母系の可能性を同時に視野に入れるものでした。
女性宮家に大筋賛成した理由は何か
宮家の存続方法を改善するため、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持する方策に大筋賛成しました。
所教授は、2005年の皇室典範に関する有識者会議が示した、女性天皇・長子優先案については、悠仁親王の誕生により当面論外になったと見ました。
しかし、もう一つの女性宮家を認める案については、2012年時点で結婚適齢期の皇族女子が複数いるため、できるだけ早く法制化すべきだと述べました。
所教授は、今回の課題を、本家である皇位継承問題とは別に、分家である宮家の存続方法を改善する問題として捉えました。
そのため、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持する方策に、大筋で賛意を示しました。
宮家の歴史から何を導いたのか
宮家は男系男子を慣例としつつ、養子や女性当主の実例もあり、前例のない制度を開いてきたと述べました。
所教授は、宮家の歴史を振り返りました。
大宝令制では、天皇の兄弟姉妹と皇子皇女が親王・内親王とされました。
平安時代以降は、皇子・皇女が臣籍に下る例もあれば、皇孫以下が親王宣下を受けて親王となる例もありました。
中世には、時の天皇の猶子、つまり名目養子となって親王宣下を受け、宮家の称号を賜り、それを世襲する例も現れました。
近世から近代まで続いた四親王家では、男系男子の継承が慣例でした。
しかし、実子による相続ができない場合、天皇の皇子や他宮家の王子を養子に迎える例がありました。
とくに桂宮家では、幕末に男子の猶子を得られなかったため、皇女である淑子内親王が第11代当主となった実例があります。
所教授は、このような歴史を踏まえ、皇室の歴史には新例を開いてきた面があると見ました。
旧宮家子孫について、どう見たのか
旧宮家子孫の皇籍取得も検討に値するが、法的実現は容易でなく、女性宮家の設立・相続を先に進めるべきだと述べました。
所教授は、近代の宮家の多くが伏見宮家から分立したことを確認しました。
そのうち、北白川、竹田、朝香、東久邇の四宮家には明治天皇の四内親王が降嫁し、さらに久邇宮家からは香淳皇后が入内しています。
そのため、この五宮家は、母方を通じて現皇室と血縁が近いと見ました。
所教授は、皇族確保のため、これら五宮家の子孫が皇籍を取得する案も検討に値すると述べました。
ただし、旧宮家の子孫といっても、戦前に臣籍降下した方々の子孫、戦後離籍後に養子として他家を継いだ方の子孫、嫡子と庶子の区別など、複雑な問題があります。
そのため、特定の方々に皇籍取得を法的に認めることは容易ではないとしました。
そこで、所教授は、旧宮家子孫の検討よりも、まず女性宮家の設立・相続を可能にする典範改正から着手すべきだと考えました。
女性宮家の範囲をどう考えたのか
内親王だけでなく女王も全員可能としたうえで、長系・長子を優先し、本人の意向や当代の事情により辞退できる運用を提案しました。
所教授は、女性宮家を認める皇族女子の範囲が問題になると述べました。
そのうえで、原則として、1世・2世の内親王だけでなく、3世以下の女王も全員可能とする案を示しました。
ただし、典範の原則にもある直系・長系・長子を優先する方針をとります。
さらに、本人の意向や当代の事情を考慮し、皇室会議で検討して承認を得れば、辞退することができる運用の工夫も必要だと述べました。
具体的には、秋篠宮家の長女が同家を継ぎ、次女が新宮家を立てる。
皇太子家の長女が新宮家を立てる。
寬仁親王家の長女、高円宮家の長女がそれぞれ同家を継ぐ。
他の次女や三女は、姉君に代わって同家を継ぐこともあり得るが、原則として長女以外は皇族の身分を離れてもよい、という整理です。
女性宮家の相続をどう設計したのか
女性宮家は永世皇族とはせず、各宮家の相続者以外は順次皇籍を離れる調整準則を設けるべきだと述べました。
所教授は、女性宮家を設ける場合、現行の男性宮家のような永世皇族にしない方がよいと述べました。
将来、宮家や皇族が増え過ぎることを防ぐ必要があるからです。
そのため、各宮家の相続者以外は、順次皇籍を離れるような調整の準則をつくるべきだとしました。
これは、女性宮家を一代限りにするという意味ではありません。
むしろ、女性宮家の設立と相続を可能にしつつ、無制限に皇族が増え続けないよう調整する制度設計です。
女性宮家の夫と子をどう位置づけたのか
結婚する男性は入夫として皇族となり、子孫も皇族として宮家を相続するが、夫に皇位継承資格は認めないと述べました。
所教授は、女性宮家では、皇族女子が当主となって独立の生計を営むとしました。
結婚する男性は、入夫として皇族の身分を得ます。
ただし、その男性は当主にはならず、もちろん皇位継承資格も認められません。
これは、一般家庭で娘に他家から迎える男性を当主とする婿養子とは違うと説明しました。
また、女性宮家の子孫も皇族として宮家を相続します。
ただし、長系・長子以外は順次皇籍を離れるようにして、皇族数を適宜調整する必要があるとしました。
所教授は、男性が入夫として皇族となることに対する反対論にも答えています。
女性は祭祀を行えないから当主にすべきでない、男性は世俗的野心を持つから皇族にしてはならない、という反対論は、単純な誤解だと述べました。
宮中祭祀には女性の内掌典が深く奉仕しており、伊勢神宮の祭主も元内親王が務めてきた。
また、世俗的な野心は男性だけでなく女性にもあり得るため、皇族女子の結婚相手も、皇室会議で吟味して決定すべきだとしました。
皇室会議の役割をどう考えたのか
皇族女子の婚姻や宮家設立では、皇室会議がより実質的な審議を尽くすべきだと述べました。
所教授は、現行皇室典範10条が「立后及び皇族男子の婚姻」は皇室会議の議を経ると定めていることに触れました。
これを、男子にも女子にも適用されるよう改正する必要があると考えました。
とくに、皇族女子の婚姻により宮家を設ける場合、皇室会議は、より実質的な審議を尽くすべきだと述べました。
また、宮家の設立や相続は、天皇と皇族にとって身内の重大事です。
そのため、皇族の意向は、皇室会議の議員である皇族2名を通じて伝えることもできます。
しかし所教授は、むしろ議長である内閣総理大臣が皇室に出向いて意向を承り、それを皇室会議で最も尊重してほしいと述べました。
内親王・女王の称号保持案をどう見たのか
皇籍離脱後も内親王・女王の称号を尊称として用いる案には慎重でした。
所教授は、皇族身分を離れても皇室関係の仕事をしてもらうために、婚姻後も内親王・女王の称号を用いられるようにする案があることを取り上げました。
しかし、この案には慎重でした。
旧皇室典範44条は、皇族女子が臣籍に嫁した後も、特旨により内親王・女王の称号を持つことを認めていました。
しかし、所教授は、これは皇族という身分に基づくものではなく、特に賜る尊称であり、例外的な措置だったと説明しました。
その実例も、梨本宮方子女王への「お沙汰」以外にはほとんど見当たらないとしました。
そのため、現行憲法のもとで一般国民となった元皇族に、内親王・女王の称号を便宜的に尊称として認めることは、皇室と国民の区別を曖昧にする一因になりかねないと述べました。
元皇族の公的任務について、何を述べたのか
元内親王・元女王が、皇室の多様な活動を外から支え助けるための公的な任務と待遇を検討することには意味があると述べました。
所教授は、皇籍離脱後の称号保持には慎重でした。
しかし、元内親王や元女王が皇室の活動を外から支えることまで否定したわけではありません。
皇室に生まれ育って外へ出た元内親王や元女王は、現皇室に最も近い大切な存在です。
そのような方々は、現に名誉職的な役割を多く引き受けています。
さらに、皇室の多様な活動を外から支え助けることができる公的な任務と待遇を明確にしておくことは、現実的に意味があると述べました。
質疑では、伊勢神宮の祭主を例に挙げました。
神宮の祭祀は皇室祭祀の延長線上にあり、元内親王が祭主を務めることは皇室にとっても日本にとってもありがたい。
その場合、単に伊勢神宮の問題としてではなく、皇室の問題、国家の問題として、任務と待遇を十分に考えて進める必要があると述べました。
まとめるとどうなるか
所功教授のヒアリングは、女性宮家の設立・相続に大筋賛成しながら、皇位継承の安定、宮家の歴史、旧宮家子孫、入夫の皇族化、称号保持への慎重論を組み合わせた、総合的な制度設計でした。
所教授は、皇室活動は日本社会に安心と安定をもたらし、国際社会からの信頼と敬愛の大きな要因になっていると評価しました。
ただし、皇室活動の維持だけでなく、より重い目的として、皇位の安定的継承を可能にすることが必要だと述べました。
当面は男系男子継承を維持しつつ、将来的には女子・母系の可能性も開く必要があると見ました。
宮家の歴史については、男系男子継承を慣例としながらも、養子や女性当主の実例があったことを確認しました。
旧宮家子孫の皇籍取得も検討に値するとしつつ、法的実現は容易でないため、まず女性宮家の設立・相続を可能にする典範改正から着手すべきだと述べました。
女性宮家の範囲は、内親王だけでなく女王も全員可能とし、長系・長子を優先し、本人の意向や当代の事情を考慮して辞退できる運用を提案しました。
女性宮家では、皇族女子が当主となり、結婚する男性は入夫として皇族になりますが、皇位継承資格は認められません。
皇籍離脱後の内親王・女王称号保持には慎重でしたが、元内親王・元女王が皇室を外から支える公的任務と待遇を検討することには意味があると述べました。
つまり、所功教授の意見は、男系男子継承を当面維持しつつ、女性宮家の設立・相続を制度化し、旧宮家子孫や元皇族の役割も含めて、皇室活動と皇位継承を総合的に支えようとする中庸の制度設計でした。
