小田部雄次教授は、皇室改革では現状を大きく変えないことを基本に、皇族女子の身分保持には賛成しつつ、配偶者・子を皇族としない案や、現在の宮家を女性皇族が継承する案を示しました
小田部雄次教授は、2012年5月21日の第5回「皇室制度に関する有識者ヒアリング」で、静岡福祉大学教授として意見を述べました。
小田部教授の発言は、大きく三つに分けられます。
第一は、皇室改革に対する基本姿勢です。
小田部教授は、皇室に関わる改革は、日本社会のあり方の根幹に関わり、国際社会にも影響を与える問題であると見ました。
そのため、一つの問題だけを切り出して制度を大きく変えるのではなく、現状を大きく変えないこと、法文や慣行を大きく変えないことを基本にすべきだと述べました。
第二は、皇族女子の活動への評価です。
小田部教授は、明治時代以来、歴代皇后や皇族女子が、日本赤十字社、福祉施設、地方行啓、被災地慰問、国際親善などで大きな役割を果たしてきたと説明しました。
皇族女子の活動は、社会的困難にある人々の精神的支えとなってきたため、将来、皇族女子が大きく減少することは、国家や社会にとっても大きな損失になると見ました。
第三は、制度設計です。
小田部教授は、皇族女子が婚姻後も皇族の身分を保持することには賛成しました。
ただし、改正後の皇室の規模は、現皇室の皇族数を超えないことが望ましいと述べました。
また、女系天皇への危惧が強いなら、婚姻後の女子の皇族身分の保持を優先し、配偶者と子は皇族としない方がよいとしました。
旧皇族家の末裔の皇族復帰については、現皇室との血筋の遠さ、戦前の降下準則、本人の意思、住居や土地の問題などから、疑問が多いと述べました。
第5回有識者ヒアリング議事録
小田部雄次配付資料
どの質問事項に対応する発言だったのか
小田部雄次教授の発言は、質問事項全体に対応していますが、中心は「2.今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて」「3.皇室の御活動維持の方策について」「4.女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとする場合の制度のあり方について」です。
また、戦後の象徴天皇制度と皇室活動の意義を説明しているため、「1.象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について」にも対応しています。
特徴は、皇室制度を大きく変えないという慎重な姿勢を基本にしながら、皇族女子の身分保持には賛成した点にあります。
女性宮家をめぐる議論では、配偶者や子を皇族とするかどうか、宮家の数を増やすかどうか、旧皇族家の末裔をどう扱うかを、国民感情や国庫負担も含めて検討しています。
皇室改革に対する基本姿勢は何だったのか
現状を大きく変えず、法文や慣行を大きく変えないことを基本にすべきだと述べました。
小田部教授は、皇室に関わる改革は、日本社会のあり方の根幹に関わり、国際社会にも影響を与える問題だと述べました。
現在の皇室は、長い歴史と伝統の積み重ねによって成り立っています。
一つの法文や慣行であっても、維新以前の歴史と文化、維新以後の近代の経験、ほかの法文や慣行との関係の中にあります。
そのため、一つの問題を解決するために、その問題だけを特化して制度を変えると、長年築かれてきた皇室や日本社会のあり方まで大きく変えてしまう危険があると見ました。
そのうえで、小田部教授は、現在の皇室改革では、現状を大きく変えないこと、法文や慣行を大きく変えないことを基本姿勢とすべきだと述べました。
象徴天皇制度と皇室活動をどう評価したのか
戦後皇室は、政治・軍事・宗教の権力者としての地位を離れ、社会の伝統と文化の中心として国民に支持されてきたと評価しました。
小田部教授は、戦前の軍国主義時代の経験から、戦後の皇室は、政治、軍事、宗教の権力者としての地位を離れたと説明しました。
そのうえで、戦後皇室は、社会の伝統と文化の中心であろうとしてきたと見ました。
国民もその皇室のあり方を支持してきました。
その結果、戦後日本は、焦土の中から立ち直り、国際社会に復帰し、平和で豊かな社会を築いてきたという理解です。
小田部教授は、皇室の国際親善、憲法遵守、国事行為、行幸啓、被災地慰問などを、戦後日本社会の平和と安定、国際社会における信頼と貢献に結びつくものとして評価しました。
皇族女子の活動について、何を重視したのか
皇族女子の活動は、社会的困難にある人々の精神的支えとなってきたと述べました。
小田部教授は、明治時代以来、皇室の御活動において、歴代皇后を中心に、各宮家の皇族女子が大きな役割を担ってきたと説明しました。
具体例として、昭憲皇太后の慈善活動、貞明皇后による福祉施設への援助、美智子皇后による福祉施設訪問や被災者慰問を挙げました。
また、歴代の皇族女子も、こうした慰問活動を分担してきたと述べました。
小田部教授によれば、皇族女子の活動は、国家の救済制度と相まって、社会的困窮者が自立する際の精神的支援となっています。
そのため、将来において皇族女子が大きく減少することは、社会的困窮者の自立を促す精神的支援という機能を、国家や社会から失わせる危険を持つと見ました。
皇族女子の身分保持について、何を述べたのか
皇族女子が婚姻後も皇族の身分を保持する方策には賛成しました。
小田部教授は、皇室典範12条により皇族女子が婚姻後に皇族の身分を離れる制度を問題にしました。
皇族女子の数を維持するために、日本国憲法や皇室典範を大きく変えることは望ましくない。
しかし、皇室典範12条を削除することで皇族女子の数を維持できるなら、それは好ましいと述べました。
また、天皇皇后両陛下の御公務が過重負担となっている状況では、ほかの皇族による支援体制を整える必要があると考えました。
皇室を構成する皇族が全員で御公務を分担し、その活動を公にしていけば、皇室への敬意と信頼はさらに深まると見ました。
この意味で、小田部教授は、皇族女子が婚姻後も皇族の身分を保持することに賛成しました。
既に皇籍離脱した内親王・女王の復帰をどう見たのか
一度皇籍離脱した方々の復帰は、皇室の伝統としても近代法治国家としても好ましくないと述べました。
小田部教授は、戦後に皇族の身分を失った旧内親王方が、伊勢神宮の祭主となるなど皇室活動を支えてきた事実を認めました。
たとえば、明治天皇皇女の北白川房子さん、昭和天皇皇女の鷹司和子さん、池田厚子さん、また黒田清子さんの活動に触れています。
しかし、既に皇籍を離脱し、相応の支度金を受けた内親王や女王が皇族に復帰することは望ましくないとしました。
皇室や国家が一度決めたことを、性急に二転三転させることは、皇室の伝統としても、近代法治国家としても好ましくないという理解です。
そのため、小田部教授は、黒田清子さんの皇族復帰を望む個人的な気持ちはあるとしながらも、復帰ではなく、婚姻前に法整備をしておくべきだったと述べました。
女性皇族による宮家継承について、何を提案したのか
内親王や女王が宮家を継承する案を示し、宮家の数を増やさない方法も提示しました。
小田部教授は、皇室活動維持の方策として、三つの案を挙げました。
第一に、内親王や女王が宮家を継承する方法です。
たとえば、愛子内親王が新宮家を設立し、秋篠宮家は眞子内親王が継ぎ、佳子内親王が新宮家を設立する。
三笠宮家や高円宮家も、彬子女王や承子女王が継承し、ほかの女王が新宮家を設立するという案です。
ただし、この案では宮家の数が現状より増えます。
第二に、現状の宮家の数を増やさない方法です。
現在ある秋篠宮、三笠宮、高円宮の三宮家を、それぞれの長女に当たる方々が継承する。
長女に不都合があれば、次女、三女の順とする案です。
小田部教授は、女性が宮家を継承する例として、旧桂宮家の淑子内親王、東伏見宮周子妃、秩父宮家の勢津子妃、高松宮家の喜久子妃、高円宮家の久子妃を挙げました。
旧皇族家の末裔の皇族復帰をどう見たのか
旧皇族家の末裔の皇族復帰には、実現可能性に疑問が多いと述べました。
小田部教授は、旧皇族家の末裔に皇族へ復帰してもらう案も挙げました。
しかし、その実現可能性には疑問が多いと述べました。
理由はいくつかあります。
第一に、旧皇族の伏見宮家の血筋が現皇室と遠く隔たっていることです。
第二に、大正時代に「皇族の降下に関する施行準則」があり、戦後の11宮家の皇籍離脱がなくても一般国民になっていたという問題です。
第三に、現在の若い世代の末裔の多くは、出生時に皇族であったことはなく、一般国民として生活してきたことです。
第四に、戦前に臣籍降下した方々にも男系の子孫がいるため、それらの方々とどう区別するかという問題です。
第五に、どの世代のどの方を皇族とするのか、皇位継承順位をどうするのか、両親・兄弟姉妹・子女をどう扱うのか、本人の意思をどこまで尊重するのかという問題です。
第六に、旧宮家の住居や土地の多くは既に私有財産として売却されており、国庫で新たに用意することには国民感情として割り切れないものが残るという問題です。
そのため、小田部教授は、旧皇族家の末裔の皇族復帰には慎重でした。
配偶者と子の身分について、どう考えたのか
女系天皇への危惧が強いなら、婚姻後の女子の皇族身分保持を優先し、配偶者と子は皇族としない方がよいと述べました。
小田部教授は、改正後の皇室の規模について、現皇室の皇族数を超えないことがふさわしいと述べました。
将来、子孫が増えて宮家や皇族の数が増えた後に、それを減少させる対応は難しいからです。
配偶者と子の身分については、女系天皇実現への危惧が強いのであれば、婚姻後の女子の皇族身分の保持を優先し、配偶者と子は皇族としない方がよいと述べました。
内親王や女王が単独で活動する際は、そのまま活動すればよい。
国際的な場などで夫婦や家族での参加が不可欠な場合には、「内親王ご夫妻」「女王ご一家」のような形で活動すればよいと考えました。
夫婦や親子で身分が違うことへの懸念は認めつつ、配偶者や子孫の皇族化に反対する声がある現状ではやむを得ないと見ました。
皇位継承問題について、何を述べたのか
今回の議論では皇位継承問題に触れないことを前提にしつつ、個人的には長子相続を重視してほしかったと述べました。
小田部教授は、今回のヒアリングでは、皇位継承問題に触れないという前提を踏まえて発言しました。
そのうえで、質疑では、皇位継承問題に触れるのであれば、個人的には本来、長子相続をもっと重視してほしかったと述べています。
長子相続が安定していれば、こうした混乱はもっと少なくて済んだという見方です。
また、現皇室典範では悠仁親王が皇位を継承することになるが、将来の万一の事態を考えるなら、現皇統の方の子孫の血筋がつないでいく方がよいという個人的意見も示しました。
ただし、小田部教授は、この問題が男系・女系論に発展して、女性皇族の活動継続という課題全体が御破算になることは好ましくないとしました。
そのため、皇位継承問題は将来の課題として残すべきだと考えました。
婚姻が円滑に進むための配慮として、何を挙げたのか
両性の合意を前提に、皇室会議の審議と、婚姻しやすい環境づくりが必要だと述べました。
小田部教授は、皇室といえども、婚姻には両性の合意が大前提であると述べました。
ただし、皇室の場合は、両性の合意だけで婚姻を維持しがたい多くの要素があります。
そのため、良識ある人々による賛意や同意が必要であり、皇室会議はそのための場として用意されていると述べました。
また、皇室のお相手探しについては、18歳、あるいは少し早い16歳前後から、将来を前提にした幅広く多様な交流の場を設け、20歳代で結婚できる環境を整えるべきだと述べました。
男女共学の学校に入り、学校生活だけでなく、サークルやボランティアなど、多くの人が集う場で社会参加することも望ましいとしました。
さらに、皇室と縁戚関係になることは一般国民にとって難しい雰囲気や環境があるため、相手となる方が婚姻しやすい環境づくりも必要だと述べました。
まとめるとどうなるか
小田部雄次教授のヒアリングは、皇室制度を大きく変えない慎重な姿勢を基本にしながら、皇族女子の身分保持を認める実務的な意見でした。
小田部教授は、皇室改革では、現状を大きく変えず、法文や慣行を大きく変えないことを基本にすべきだと述べました。
戦後皇室については、政治・軍事・宗教の権力者としての地位を離れ、社会の伝統と文化の中心として国民に支持されてきたと評価しました。
皇族女子については、明治時代以来、福祉・慰問・国際親善などを通じて、社会的困難にある人々の精神的支えとなってきたと述べました。
そのため、皇族女子が婚姻により皇籍を離脱し、皇室活動から大きく離れていくことには危機感を示しました。
制度案としては、皇族女子が婚姻後も皇族の身分を保持することに賛成しました。
一方で、改正後の皇室の規模は現皇室の皇族数を超えないことが望ましいとし、女系天皇への危惧が強いなら、配偶者と子は皇族としない方がよいと述べました。
また、旧皇族家の末裔の皇族復帰については、血筋の遠さ、降下準則、本人の意思、国庫負担、国民感情などから疑問が多いとしました。
つまり、小田部雄次教授の意見は、女性皇族の活動継続を重視しつつ、皇室制度全体を大きく動かさない範囲で、皇族女子の身分保持と宮家継承を検討する慎重な制度案でした。
