市村真一教授は、2012有識者ヒアリングで何を述べたか

市村真一教授は、宮家の断絶を立憲君主制の根幹に関わる緊急事態と見て、内親王・女王を当主とする宮家創設に賛成しつつ、旧宮家復帰や養子制度は中長期課題として検討すべきだと述べました

市村真一教授は、2012年4月24日の第4回「皇室制度に関する有識者ヒアリング」で、京都大学名誉教授として意見を述べました。

市村教授の発言は、大きく三つに分けられます。

第一は、皇室活動の意義です。

市村教授は、立憲君主制における君主・王族の役割を、カール・レーベンシュタインの『君主制』に依拠して説明しました。

天皇、皇后と皇族は、国家と国民統合を象徴し、外交の連続性を保ち、国民との信頼関係と敬仰の念を基礎として、立憲君主制にとって重要な役割を果たしていると見ました。

第二は、宮家断絶への危機感です。

現行皇室典範のままでは、宮家がなくなっていくおそれがあり、それは日本の立憲君主制の根幹を揺るがす事態だと述べました。

そのため、緊急の法的措置が必要だとしました。

第三は、対策を緊急・中期・長期に分ける整理です。

市村教授は、内親王・女王を当主とする宮家の創設を緊急方策として提案しました。

一方で、旧皇族の復帰、平成の施行準則、養子制度、緊急事態処理条項、皇室会議への天皇の臨席、皇位継承順位の再検討などは、中期・長期の課題として、調査会を設けて慎重に検討すべきだと述べました。

皇室制度に関する有識者ヒアリング 第4回 議事録

市村真一「皇室典範の改正:諮問事項についての所見」

どの質問事項に対応する発言だったのか

市村真一教授の発言は、質問事項全体に対応していますが、中心は「2.今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて」「3.皇室の御活動維持の方策について」「4.女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとする場合の制度のあり方について」です。

また、皇室活動の意義を、立憲君主制における君主・王族の役割から説明しているため、「1.象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について」にも対応しています。

特徴は、対策を一つに絞らず、緊急方策・中期方策・長期方策に分けた点です。

女性宮家を緊急方策として認めながら、旧宮家復帰や養子制度、宮家の継続ルールなどは、時間をかけて検討すべき問題として位置づけました。

皇室活動の意義をどう説明したのか

天皇、皇后と皇族の活動を、立憲君主制における君主・王族の役割として説明しました。

市村教授は、カール・レーベンシュタインの『君主制』を参照し、君主制における君主・王族の役割を六つに整理しました。

国家と国民統合を象徴的に具現すること、政治家の権力欲を制御すること、外交の連続性を保つこと、政治的な力関係の調整役となること、官僚制の効率を支えること、軍や将校団の忠誠心の支柱となることです。

日本国憲法のもとでは、軍との関係は通常の君主制とは異なります。

しかしそれを除けば、天皇、皇后と皇族は、こうした役割を見事に果たしていると述べました。

その基礎にあるのは、国民と皇室との強い信頼関係、そして国民の皇室への敬仰の念です。

市村教授は、現在の皇室と国民の関係は国際的に見ても非常に優れたものであり、歴代天皇、とくに今上天皇の努力の結果だと評価しました。

宮家断絶をどう見たのか

宮家がなくなることは、日本の立憲君主制の根幹を揺るがす事態だと見ました。

市村教授は、現行皇室典範を改正しない限り、宮家がなくなるという事態が生じると述べました。

天皇とその家族以外に皇族がいないという状況は、あってはならない。

それは、日本の立憲君主制の根幹を揺るがすことになるという理解です。

そのため、市村教授は、緊急事態を救済する制度的工夫が必要だと考えました。

ただし、緊急策だけで終わるべきではないとも述べています。

なぜ宮家断絶の危機が生じたのか、その理由を少なくとも当分の間は除去できるような対策も必要であり、そのためには中期的な調査会を設けるべきだと提案しました。

緊急方策として、何を提案したのか

内親王・女王を当主とする宮家の創設を、皇室典範12条などの改正によって実現することに賛成しました。

市村教授は、緊急方策として、内親王・女王を当主とする宮家の創設に賛成しました。

理由は明快です。

そうしない限り、宮家が絶えるからです。

皇太子家と現在の宮家の断絶を極力防ぐためには、皇室典範12条を中心とする改正によって、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持できるようにする必要があると考えました。

また、既に皇籍を離れた内親王や女王についても、必要に応じてその称号を保持し、皇室活動に協力を要請できるようにすることにも賛成しました。

これは、明治皇室典範44条にあった、皇族女子が臣籍に嫁した後も特旨によって内親王・女王の称号を持つことができる制度に近いものとして説明されています。

旧宮家復帰をどう位置づけたのか

旧宮家復帰は、緊急方策ではなく、中期方策として慎重に検討すべきだと述べました。

市村教授は、旧皇族の子孫が皇族に復帰し、元の宮家を復活する案を、否定はしませんでした。

しかし、緊急に行うべきではないとしました。

その理由は、検討すべき問題が多いからです。

一つは、一度臣籍に降下した皇族は皇族に復帰しないという原則です。

明治40年の皇室典範増補には、臣籍に入った皇族は皇族に復することを得ない、という趣旨の規定がありました。

この原則と、旧宮家復帰案との関係をどう整理するのかが問題になります。

もう一つは、大正9年の「皇族の降下に関する施行準則」です。

市村教授は、この準則は占領政策とは関係なく、明治天皇・大正天皇の意向も反映されたものとして尊重すべきだと見ています。

そのため、旧宮家復帰を考える場合にも、大正9年準則を無視して永世宮家のように扱うのは適切ではないと述べました。

「平成の準則」とは何か

女性宮家の創設と旧宮家復帰を整合的に扱うため、新しい宮家継続ルールとして「平成の準則」を定めるべきだと述べました。

市村教授は、女性皇族を当主とする宮家を認めるなら、大正9年の降下準則も見直す必要があると述べました。

そのうえで、明治天皇と昭和天皇の内親王が降嫁した朝香宮、東久邇宮、竹田宮、北白川宮の四宮家を、どのように扱うかを検討すべきだとしました。

この四宮家は、女系のつながりも含めて見直せば、皇族復帰を検討し得る位置にあると考えられます。

ただし、市村教授は、それを直ちに認めるとは言っていません。

この問題は、旧皇族は復帰できないという原則と矛盾するため、慎重に検討しなければならないとしました。

そこで、新しく「平成の施行準則」、つまり平成の準則を定め、誰が宮家を継承できるのか、どの世代まで皇族とするのか、どのような場合に皇籍を離れるのかを整理すべきだと述べました。

中期方策として、何を挙げたのか

平成の準則、養子制度、緊急事態処理条項、皇室会議への天皇の臨席を中期方策として挙げました。

市村教授は、中期方策として、数年以内に検討すべき課題を挙げました。

第一に、平成の準則を定め、必要な皇室典範の修正を行うことです。

第二に、各宮家に、皇室会議の議を経て養子を認めるよう、皇室典範9条を改正することです。

市村教授は、明治以前には皇室や宮家で養子が行われていたこと、側室のない制度では養子なしに家を維持することが難しいことを理由に、養子制度の検討が必要だと述べました。

第三に、皇室典範に、非常事態に皇室会議が対処できる緊急事態処理条項を置くことです。

第四に、必要に応じて、皇室会議に天皇が臨席できるように皇室典範を改正することです。

これらはいずれも、目の前の宮家断絶だけでなく、制度全体を長く保つための仕組みとして位置づけられています。

長期方策として、何を述べたのか

皇位継承順位の現実的な再検討と、憲法・皇室典範全体の再検討を長期方策として挙げました。

市村教授は、長期方策として、皇位継承順位を現実的に定め直すこと、そして憲法と合わせて皇室典範全体を再検討することを挙げました。

背景にあるのは、側室制度がなくなったことです。

市村教授は、現在の皇室問題の根本には、側室がなくなったことがあると見ました。

側室がなく、養子も認められていない制度のもとで、男系男子による皇位継承と宮家継承を維持しようとすれば、数世代のうちに再び危機が生じる可能性があります。

そのため、旧宮家復帰だけで将来の皇統維持が安定するとは限らないと考えました。

大事なのは、まず長期見通しを考え、それに対処できる制度を工夫し、そのうえで短期的な運用ルールをつくることだと述べました。

まとめるとどうなるか

市村真一教授のヒアリングは、女性宮家創設に賛成しつつ、それだけで終わらせず、皇室制度全体の短期・中期・長期の設計を求めるものでした。

市村教授は、天皇、皇后と皇族の活動を、立憲君主制における君主・王族の役割として評価しました。

現行皇室典範のまま宮家がなくなることは、日本の立憲君主制の根幹を揺るがす事態であり、緊急の制度的対応が必要だと考えました。

その緊急方策として、内親王・女王を当主とする宮家の創設に賛成しました。

また、既に皇籍を離れた内親王や女王に称号を保持してもらい、皇室活動に協力してもらうことにも賛成しました。

一方で、旧宮家復帰は緊急策ではなく、大正9年準則や臣籍降下後の復帰禁止原則との関係を踏まえ、中期方策として慎重に検討すべきだとしました。

中期方策としては、平成の準則、養子制度、緊急事態処理条項、皇室会議への天皇の臨席を挙げました。

長期方策としては、皇位継承順位の再検討と、憲法・皇室典範全体の再検討を挙げました。

つまり、市村真一教授の意見は、女性宮家を緊急の制度対応として認めつつ、皇室制度を長く保つためには、中期・長期の制度設計を同時に始めるべきだというものでした。

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