家族に関する制度等は、皇位継承論の背景にある「家」「氏」「長男」「男女の役割」の意識が、近代以降大きく変化していることを示しています
2005年7月20日の皇室典範に関する有識者会議第10回では、資料2「家族に関する制度等について」が配布されました。
この記事は、この資料をもとに、家族に関する制度等が皇位継承論で何を意味するのかを整理します。
なぜ、この資料が第10回で出されたのか
この資料が第10回で出されたのは、皇位継承論の背景にある家制度、氏、相続、男女の役割について、制度と社会意識の変化を確認するためだと考えられます。
第8回の議事要旨では、男系男子説の背景に、男系を中心とした家の継承を理想として皇室に求める考え方があるのではないか、という意見が出ていました。
また、側室がなくなったこと、姓が使われなくなったこと、少子化が進んでいることなど、社会変化を踏まえる必要も指摘されていました。
その流れを受けて、第10回では、家族に関する制度と社会意識を確認する資料が出されたのだと考えられます。
明治民法と現行民法では、家族制度の何が違うのか
明治民法では「家」が制度の中心でしたが、現行民法では「家」という法律上の制度はなくなりました。
資料の冒頭では、明治民法と現行民法が対比されています。
明治民法では、戸主と家族が家の氏を称し、戸主には家族を統率する権利がありました。戸籍も、戸主を本として、家ごとに編成されました。
これに対し、現行制度では、「家」という法律上の制度はありません。戸籍は、夫婦と、これと氏を同じくする子ごとに編成されます。
つまり、制度の中心は、戸主を頂点とする家から、夫婦と子を単位とする戸籍へ移っています。
皇位継承論で「家」や「男系の家の継承」が語られるとき、この制度変化は前提として確認しておく必要があります。
婚姻では、妻が夫の家に入る制度から、夫婦が氏を選ぶ制度へ変わった
明治民法では、婚姻により妻が夫の家に入るのが基本でしたが、現行民法では、夫婦が婚姻時に定めた氏を称します。
明治民法では、婚姻により妻は夫の家に入るとされました。入夫婚姻や婿養子の場合を除き、妻が夫の家に入ることが原則でした。
これに対し、現行民法では、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称します。婚姻によって氏を変えなかった者が、戸籍の筆頭者となります。
この変化は、家制度のもとでの婚姻から、夫婦を単位とする制度への移行を示しています。
相続では、家督相続から均分相続へ変わった
明治民法では家督相続が中心でしたが、現行民法では、配偶者と子を中心とする均分相続が基本になっています。
明治民法では、戸主が死亡・隠居したときなどに家督相続が始まりました。戸主の財産は、その身分とともに単独相続されるのが基本でした。
家督相続の順位では、直系男子、庶出男子、嫡出女子などが順位づけられ、子による均分相続は例外的なものにとどまりました。
これに対し、現行民法では、財産は配偶者と子により相続され、子の間では均分するのが基本です。
つまり、家を一人が承継する発想から、家族構成員の間で相続する発想へ変わっています。
長男・男子を特別視する意識は、どのように示されていたのか
長男や男子に特別な役割を認める意識は、弱まりつつも残っており、世代によっても差がありました。
資料では、男の子がいなかった家が絶えないように養子をとるのがよいという考え方、長男には他の子供とは異なる特別な役割があるという考え方、親の遺産を相続する場合に長男や跡取りを多くするかどうかなどについて、世論調査が示されています。
平成13年調査では、「男の子供がいなかった家が絶えないように養子をとるのがよい」という考えについて、「思う」は少数で、「思わない」が多数でした。
また、「長男には、他の子供とは異なる特別な役割がある」という考えについても、「思わない」が「思う」を上回っていました。
年代別に見ると、否定的な回答の割合には差があります。若い世代ほど、長男や男子を特別視する意識から離れている傾向が見えます。
一方で、遺産相続については、長男や跡取りを多くするという意識が一定程度残っていることも示されています。
家や長男を中心とする意識は弱まっているが、完全になくなったわけではなく、世代差を伴いながら変化しているということです。
名字や実家の名前への意識は、何を示しているのか
名字や実家の名前をめぐる調査は、家や氏への意識が、制度上は変化しつつも社会意識として残っていることを示しています。
資料には、名字とはどのようなものだと思うか、実家の名前を残すために婚姻をためらうことがあると思うか、家庭で主導的な実権を握っているのは誰かなどの調査も示されています。
平成8年調査では、名字について、「先祖から受け継がれてきた名称」と考える回答が最も多く、全体で4割を超えています。
平成13年調査では、実家の名前を残すために婚姻するのが難しくなることがあると思うかについて、全体では「そうは思わない」が過半数ですが、「そう思う」も4割程度あります。
このことは、現行制度では「家」は法律上の制度ではなくなっていても、名前や家の継続をめぐる意識がなお社会に残っていることを示しています。
男女の役割意識は、どのように変化していたのか
「夫は外で働き、妻は家を守る」という考え方への支持は、長期的には下がりつつも、世代や地域によって差がありました。
資料には、「夫は外で働き、妻は家を守る」という考え方についての調査が示されています。
昭和47年から平成16年にかけて、男性・女性ともに、この考え方への賛成は低下しています。ただし、年齢層によって差があり、高齢層では賛成が高く、若年層では低くなっています。
また、都市規模別の調査では、町村などでは賛成が比較的高く、都市部とは差があります。
つまり、男女の役割意識は変化しているものの、世代や地域によって見方が分かれていました。
女性の社会進出は、どのように示されていたのか
資料は、各分野の女性割合や大学進学率の変化も示し、女性の社会的位置が大きく変化していることを確認しています。
参考資料では、昭和50年と平成16年を比べて、就業者全体、衆議院議員、参議院議員、国家公務員の管理職、管理的職業従事者、医師、裁判官・検察官・弁護士、公認会計士・税理士などに占める女性の割合が増えていることが示されています。
また、大学進学率も、昭和50年から平成16年にかけて、男性・女性ともに上昇しており、特に女性の大学進学率が大きく伸びています。
これは、女性天皇・女系天皇の可否を直接決める資料ではありません。しかし、男女の役割や家族制度をめぐる社会的前提が変化していることを示す資料として意味があります。
皇位継承論とどう関係するか
この資料は、皇位継承を、古い家制度や長男観念だけで説明できるのかを問い直すための資料です。
家族に関する制度等を確認することは、皇位継承論の背景にある家制度、氏、相続、男女の役割を考えるための前提になります。
明治民法では、戸主を中心とする家制度があり、婚姻、相続、氏も家を中心に組み立てられていました。
しかし、現行民法では、家という法律上の制度はなくなり、戸籍は夫婦と子を単位として編成され、相続も配偶者と子を中心とする均分相続が基本になっています。
また、社会意識の面でも、長男や男子に特別な役割を認める意識は弱まり、男女の役割意識や女性の社会的位置も変化しています。
この変化を踏まえると、皇位継承を、かつての家制度や長男観念だけで説明することは難しくなります。
一方で、家や氏、名字、跡取りへの意識は、社会から完全に消えたわけではありません。
資料は、皇位継承論を考えるとき、男系・男子・家・氏・長男観念を、そのまま現在に持ち込むことも、完全に消えたものとして扱うこともできないことを示しています。
皇位継承論では、家族制度と社会意識の変化を踏まえたうえで、皇室制度において何を維持し、何を見直すのかが問われることになります。
