2005有識者会議は、識者ヒアリングをどう整理したのか

2005有識者会議は、識者ヒアリングを、皇位継承資格と皇位継承順位を検討するための論点表として整理しました

2005年6月30日の皇室典範に関する有識者会議第8回では、第6回・第7回で行われた識者ヒアリングを整理した資料が配布されました。

資料の標題は、「ヒアリングにおいて表明された皇位継承資格及び皇位継承順位についての意見の整理」です。資料冒頭では、皇位継承資格と皇位継承順位を中心に、事務局の責任で、論点と思われる事項ごとに整理を試みたものだと説明されています。

ヒアリングにおいて表明された皇位継承資格及び皇位継承順位についての意見の整理

整理の柱は、歴史・継承資格・継承順位だった

この資料は、思想の一覧ではなく、制度設計に必要な論点へ絞り込むための整理でした。

大きく三つの柱で構成されています。

第一に、歴史・伝統の意義等です。
ここでは、男系継承の歴史を原理として見るのか、時代ごとの手直しや選択を伝統として見るのかが問題になります。

第二に、皇位継承資格です。
ここでは、男系を重視すべきか、女性天皇・女系天皇を可能とすべきかが対比されています。

第三に、女性天皇・女系天皇を可能とする場合の皇位継承順位です。
ここでは、長子優先にするのか、男子優先・男子先行にするのかが整理されています。

有識者会議は、ヒアリングで出された多様な意見を、結論へ向けた制度設計の論点として並べ直していました。

歴史・伝統では、何を「守るべき伝統」と見るかが分かれた

歴史・伝統の整理では、男系を守ることが伝統なのか、時代に応じて制度を調整してきたことが伝統なのかが交錯しています。

男系を重視する立場では、皇位が長く男系で継承されてきたこと自体が、重く見るべき歴史であり、確立した原理だとされます。

これに対し、別の立場では、皇位継承は、皇統に属する皇族であることを大原則としながらも、時代ごとの慣習や力関係、制度上の工夫によって維持されてきたものと見られます。

また、天皇・皇室を社会秩序の象徴として見る考え方や、宗教的権威・カリスマ原理を重視する考え方、憲法規範を超えて伝統を過度に重視することはできないとする考え方も整理されています。

ここでの交錯点は、伝統の意味です。

伝統とは、男系で続いてきた事実そのものなのか。
それとも、危機に応じて制度を手直ししてきた営みなのか。
あるいは、社会や憲法の中で再解釈されるものなのか。

資料は、その違いを「歴史・伝統の意義等」として整理しました。

皇位継承資格では、男系維持と女性・女系容認が対比された

中心に置かれた対立軸は、男系を維持するか、女性天皇・女系天皇を可能にするかです。

男系を重視する考え方では、皇位は単なる直系継承ではなく、男系で継承されてきたことに意味があるとされます。女系を認めることは、継承資格者を増やすだけでなく、皇統の根拠を変えるものと見られます。

これに対し、女性天皇・女系天皇を可能とする考え方では、女系も皇統に含まれ得ること、現行制度が皇統・嫡系・男系・男子・皇族という条件で狭くなりすぎていること、男系男子限定では安定的な継承が難しいことが示されます。

ここでの交錯点は、皇統の理解です。

皇統を男系に限るのか。
女系も皇統に含み得るのか。
皇位継承資格を広げることは、皇統の破壊なのか、制度の安定化なのか。

資料は、この対立を、皇位継承資格の中心問題として整理しました。

国民統合・世論・安定性では、同じ言葉の意味が立場によって変わった

「国民統合」「世論」「安定性」は、双方が使う言葉ですが、その意味は同じではありません。

男系維持の側では、男系で一貫してきたことが皇室の権威や国民統合の源泉だとされます。また、女性天皇支持の世論が高くても、女系を採用する意味が十分に理解されているのかが疑問とされます。

これに対し、女性天皇・女系天皇を可能とする側では、象徴天皇は国民の支持によって支えられる制度であり、男系男子に固執することが、かえって国民の支持を損なう可能性があるとされます。

安定性についても、意味が分かれます。

男系維持側にとっての安定性は、男系の血筋を持つ宮家を増やすことです。
女性・女系容認側にとっての安定性は、男系・男子限定の制約を緩和し、継承資格者を制度的に確保することです。

同じ「安定性」という言葉の中に、異なる制度像が入っていました。

旧宮家復帰・養子制度では、男系維持策と国民的受容がぶつかった

旧宮家復帰や養子制度は、男系維持の具体策であると同時に、国民感情や皇族と国民の区別をめぐる問題でもありました。

男系を重視する考え方では、旧宮家の皇籍復帰や皇族の養子制度は、男系主義を維持するための有力な方策として位置づけられます。昭和22年の皇籍離脱は占領下の特別な事情によるものであり、旧宮家の男系男子を皇族に戻すことが検討されます。

これに対し、女性天皇・女系天皇を可能とする考え方では、旧宮家は天皇家から遠いこと、皇籍離脱から長い時間が経っていること、皇族と一般国民の区別が曖昧になること、世論の支持が得られにくいことが問題とされます。

ここでの交錯点は、男系維持のために、どこまで皇族の範囲を広げられるかです。

血統上の男系を重視するのか。
現在の皇族身分や国民的受容を重視するのか。

資料は、旧宮家復帰・養子制度を、単なる技術的手段ではなく、皇族の範囲と国民統合に関わる論点として整理しました。

皇室の規模では、宮家をどう維持するかが問われた

皇室の規模の問題は、単なる人数の問題ではなく、男系宮家を増やすのか、女性皇族の皇籍保持を認めるのかという制度選択です。

男系を重視する考え方では、現在の宮家を存続させ、将来の皇位継承に備えて男系の血筋を引く宮家を増やすことが重視されます。

これに対し、女性天皇・女系天皇を可能とする考え方では、女性皇族が婚姻後も皇族にとどまり、宮家を立てることが検討されます。その子も皇族となれば、皇族数の確保につながります。

ここでの交錯点は、宮家の維持方法です。

旧宮家男子を活用して男系宮家を増やすのか。
女性皇族の皇籍保持や女性宮家によって皇族数を確保するのか。

皇室の規模の問題は、皇位継承資格の問題と結びついていました。

継承順位では、長子優先と男子優先・男子先行が分かれた

女性天皇・女系天皇を認める場合でも、継承順位については意見が分かれていました。

長子優先の考え方では、制度が簡明で、安定し、国民にも分かりやすいことが重視されます。最初の子を将来の天皇として育てることができ、順位が後から動きにくいという利点があります。

これに対し、男子優先・男子先行の考え方では、過去に男子の天皇が多いこと、天皇の公務と女性の妊娠・出産・育児との関係などが考慮されます。直系を優先しつつ、兄弟姉妹間では男子を先にするという発想です。

ここでの交錯点は、わかりやすさと伝統・皇室の活動との関係です。

長子優先は、安定性と明快さを重視します。
男子優先・男子先行は、伝統や天皇の任務との関係を重視します。

女性天皇・女系天皇を可能とする場合でも、制度設計の方向は一つではありませんでした。

まとめるとどうなるか

有識者会議は、8人の識者ヒアリングを、皇位継承資格と皇位継承順位を中心に整理しました。

歴史・伝統の意味をどう見るか。
皇統を男系に限るのか、女系も含めるのか。
安定性を男系宮家の確保に見るのか、継承資格の拡大に見るのか。
旧宮家復帰や養子制度を男系維持策と見るのか、国民的受容に問題があると見るのか。
女性天皇・女系天皇を可能とする場合、長子優先にするのか、男子優先・男子先行にするのか。

この資料は、そうした異論の交錯点を、会議が次に検討すべき論点として整理したものでした。

サイト内の記事「2005有識者会議の識者インタビューでは、皇位継承の何が問われたのか」では、8人の議論を通じて皇位継承論の地図を描きました。この資料は、その地図を皇位継承資格と皇位継承順位という制度論へ引き寄せた整理といえます。

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