大石眞教授は、皇室活動の維持には皇族数減少への対応が必要だとしたうえで、「皇族の身分を保持する」ことの意味を、宮家創設と尊称保持に分けて整理しました
大石眞教授は、2012年3月29日の第2回「皇室制度に関する有識者ヒアリング」で、京都大学大学院教授として意見を述べました。
大石教授の発言は、大きく三つに分けられます。
第一は、象徴天皇制度と皇室活動の意義です。
大石教授は、天皇の国事行為、公的行為、皇室の祭祀行為などをふまえ、天皇と皇族の活動を、国の「尊厳的」な要素として評価しました。
ただし、公的行為が大きく拡大していることについては、天皇と皇族に過剰な負担をかけないため、整理と統合を含む再検討が必要だと述べました。
第二は、皇族数減少への危機感です。
大石教授は、現行皇室典範のもとでは、皇族女子が婚姻により皇族の身分を離れ、また養子も認められていないため、皇族数の減少に歯止めがかからないと見ました。
そのため、皇室活動を積極的に評価する立場からは、現行典範改正には必要性と緊急性があると述べました。
第三は、「皇族の身分を保持する」とは何を意味するのか、という整理です。
大石教授は、この言葉を、いわゆる宮家を立てる趣旨と、婚姻後も皇族の出自を示す尊称を認める趣旨に分けて考える必要があると述べました。
この区別によって、配偶者や子の身分、皇室経済法上の扱い、議論の進め方が変わってくるからです。
第2回有識者ヒアリング議事録
大石眞配付資料
どの質問事項に対応する発言だったのか
大石眞教授の発言は、質問事項のほぼ全体に対応していますが、中心は「2.今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて」「3.皇室の御活動維持の方策について」「4.女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとする場合の制度のあり方について」です。
また、象徴天皇制度と皇室活動の意義を憲法上の位置づけから説明しているため、「1.象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について」にも対応しています。
発言の特徴は、女性宮家への単純な賛否ではなく、「皇族の身分を保持する」という言葉の意味を法的に分解し、制度ごとの帰結を整理した点にあります。
象徴天皇制度と皇室活動をどう説明したのか
天皇と皇族の活動を、国の尊厳的な要素として、党派的対立を超えて社会的結合を強めるものと評価しました。
大石教授は、天皇は日本国と日本国民統合の象徴として、憲法上の国事行為のほか、多くの公的行為を担っていると説明しました。
また、皇族は、天皇の行う各種の行為を支える存在であり、象徴としての機能を補完していると見ました。
その活動の意義について、大石教授は、国の「尊厳的」な要素として、党派的な対立を超え、社会的な結合を強める機能を持つと述べました。
一方で、天皇の公的行為が大きく拡大していることについては、それ自体が本当に望ましい方向なのか、再考の余地があるとしました。
天皇と皇族に過剰な負担をかけないためにも、皇室活動の整理と統合を含む再検討が必要だという立場です。
皇室活動の維持について、何を問題にしたのか
皇族女子の婚姻による皇籍離脱と養子禁止により、皇族数の減少に歯止めがかからないことを問題にしました。
大石教授は、現行皇室典範12条により、皇族女子は天皇または皇族以外の者と婚姻すると皇族の身分を離れること、また同9条により天皇と皇族は養子をすることができないことを指摘しました。
そのため、現行制度のもとでは、皇族数の減少という傾向が続くことになります。
愛子内親王、寬仁親王家と高円宮家の女王、秋篠宮家の内親王などは、現行典範のままでは、婚姻により皇籍を離れることが予想されます。
こうした皇族数の大幅な減少は、皇室活動の展開にとって大きな障害であり、皇室活動を積極的に評価する立場からすれば、由々しい事態だと述べました。
その意味で、大石教授は、現行皇室典範改正には十分な必要性と緊急性があると見ています。
「皇族の身分を保持する」とは何を意味するのか
「宮家を立てる」趣旨なのか、「皇族の出自を示す尊称を認める」趣旨なのかを分けて考える必要があると述べました。
大石教授の発言の中心は、この区別にあります。
「女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただく」という方策について、大石教授は、まず「皇族の身分を保持する」とは何を意味するのかを見極める必要があると述べました。
一つは、いわゆる宮家を立てるという趣旨です。
この場合、婚姻後も皇族として独立の生計を営む皇族となることが想定されます。
もう一つは、婚姻後も、皇族の出自を示す尊称、つまり内親王・女王という称号を認めるという趣旨です。
この場合は、皇族そのものとして残るというより、皇族であった出自を示す呼称を残す制度として考えられます。
大石教授は、この二つを区別しないまま「女性宮家」として議論すると、制度の意味が不明確になると見ていました。
宮家を立てる場合、どう考えたのか
宮家を立てる趣旨であれば、配偶者と子については皇族として処遇することが望ましいと述べました。
大石教授は、「皇族の身分を保持する」ことが、いわゆる宮家を立てる趣旨である場合、改正後の皇室の規模や、配偶者・子の身分を考える必要があるとしました。
この場合、配偶者は一般民間人でも構わないとしつつ、その配偶者と子については、皇族として処遇することが望ましいと述べました。
また、皇室経済との関係では、婚姻に際しての一時金だけでなく、皇族としての品位保持のために年額で支出される皇族費の手当てが必要になり、皇室経済法の改正も必要になると整理しました。
つまり、宮家を立てるならば、単に女性皇族本人の身分を残すだけでなく、配偶者、子、皇族費、儀式・行事の整理まで含めた制度設計が必要になるという考えです。
尊称を認める場合、どう考えたのか
皇族の出自を示す尊称を認める趣旨であれば、その尊称は一代限りとするのが自然だと述べました。
大石教授は、婚姻後も皇族の出自を示す尊称、つまり内親王・女王という称号を用いることを認める案についても検討しました。
この案には、旧皇室典範時代に前例があります。
旧典範では、臣籍に婚嫁した皇族女子に、皇族の出自を示す尊称として内親王・女王を称することを認めていました。
大石教授は、もし今回の「皇族の身分を保持する」が、このような尊称を認める趣旨であれば、その尊称は一代限りとするのが当然だと述べました。
この場合、皇族そのものとして宮家を立てるわけではないため、皇室経済法上も、皇族の身分を離れる際の一時金制度を大きく変える必要はないと整理しています。
旧宮家・養子について、何を述べたのか
皇族間の養子だけでは皇族数増加につながらないため、旧宮家から男系男子を養子として迎える方策も考えられると述べました。
大石教授は、現行制度では天皇と皇族の養子が禁止されていることを問題の一つとして挙げました。
そのうえで、一切の養子を禁止している現行制度を改め、少なくとも皇族間の養子を認める考え方もあるとしました。
ただし、皇族間の養子だけでは、皇族数の増加にはつながりません。
そこで、より広い範囲で現行制度を改め、旧宮家からしかるべき方々を現存の宮家の養子として迎え入れて皇族とする途も考えられると述べました。
この場合は、大幅な制度改正を避ける意味から、皇統を継ぐ男系男子を養子の要件とするのが妥当だと整理しました。
議論の進め方について、何を述べたのか
まず「婚姻後も皇族の身分を保持する」ことの意味を明確にし、そのうえで皇室典範改正の議論を進めるべきだと述べました。
大石教授は、今回の問題が一般に「女性宮家」の創立という文脈で語られることが多いと指摘しました。
しかし、重要なのは、「婚姻後も皇族の身分を保持する」とは何を意味するのかを明確にすることです。
宮家を立てるのか、尊称を認めるのかによって、制度の帰結が大きく異なるからです。
また、皇室典範改正が俎上に上るのであれば、憲法附属法の再検討の問題として、国会両議院の憲法審査会で論議することも考えられてよいと述べました。
まとめるとどうなるか
大石眞教授のヒアリングは、皇室活動の意義を評価しつつ、女性皇族の婚姻後の身分保持を、法制度として精密に整理するものでした。
大石教授は、天皇と皇族の活動を、国の尊厳的要素として、社会的結合を強めるものと評価しました。
一方で、公的行為が拡大し、天皇と皇族に過剰な負担がかかっているなら、皇室活動の整理と統合を含む再検討が必要だと述べました。
皇族数については、皇族女子の婚姻による皇籍離脱と養子禁止により、減少傾向に歯止めがかからないため、皇室活動維持の観点から、皇室典範改正には必要性と緊急性があると見ています。
そのうえで、「皇族の身分を保持する」ことの意味を、宮家を立てる趣旨と、皇族の出自を示す尊称を認める趣旨に分けました。
宮家を立てる場合は、配偶者と子を皇族として処遇することが望ましく、皇室経済法の改正も必要になります。
尊称を認める場合は、一代限りとするのが自然であり、皇室経済法上の扱いも異なります。
つまり、大石眞教授の意見は、女性宮家の是非を単純に論じるのではなく、「何を制度化するのか」を明確に切り分けたうえで、皇室活動維持のための法制度を考えるものでした。
