2005有識者会議の識者インタビューでは、皇位継承の何が問われたのか

8人の議論で問われていたのは、男系か女系かだけではなく、皇位継承を支える根拠を、男系・皇統・伝統・象徴・憲法・国民の支持のどこに置くかでした

2005年の「皇室典範に関する有識者会議」では、8人の識者に対するインタビューが行われました。

第6回では、大原康男教授、高橋紘教授、八木秀次教授、横田耕一教授が意見を述べました。第7回では、鈴木正幸教授、高森明勅教授、所功教授、山折哲雄教授が意見を述べました。

※この記事では、当時の肩書に違いがありますが、本文中では便宜上、8人の識者を「教授」と表記します。

8人の意見は、表面的には、男系を維持するか、女性天皇や女系継承を認めるか、継承順位を長子優先にするか男子先行にするか、という制度案の違いとして現れています。

しかし、もう少し深く見ると、そこで問われていたのは、単なる制度案の選択ではありませんでした。

皇位とは何を継ぐことなのか。

皇統とは男系だけを意味するのか、女系も含み得るのか。

伝統とは守るべき固定された原理なのか、時代ごとの工夫によって続いてきたものなのか。

天皇は何によって国民統合の象徴たり得るのか。

8人の議論は、こうした問いを、それぞれ異なる角度から示していました。

8人は、まず制度として何を示したか

8人の議論をまず制度案として整理すると、次のようになります。

人物方向重視したもの根拠の置きどころ
大原康男男系維持策を先に検討議論の順序・手続き男系主義・皇室の意向
高橋紘女性天皇・長子優先象徴性・国民感情象徴天皇・社会の支持
八木秀次男系維持・旧宮家復帰等正統性・伝統男系原理
横田耕一女系容認・直系長系憲法適合性・平等憲法原理
鈴木正幸制度案より判断枠を提示社会秩序・伝統の継承歴史と社会秩序
高森明勅女系・女子容認安定性・皇統女系も皇統に含む理解
所功女系容認・女性宮家・男子先行安定性・男系尊重男系の重みと現行制度の限界
山折哲雄象徴天皇制の核心が担保されれば開かれた問題象徴性・宗教的権威血統原理とカリスマ原理

大原教授と八木教授は、男系継承の歴史的重みを重視し、女系容認に進む前に、旧皇族の皇籍復帰や養子制度など、男系を維持するための方策を検討すべきだとしました。

高橋教授は、象徴天皇にふさわしい皇位継承を考えるべきだとして、女性天皇の容認と長子優先を支持しました。

横田教授は、天皇制度を憲法原理との関係から捉え、女系天皇を認め、直系・長系による継承を採ることが最も適合的だとしました。

高森教授は、現行制度が皇位継承資格を狭くしすぎていると見て、女系・女子を含める方向で制約を緩和すべきだとしました。

所教授は、男系継承の歴史的重みを認めつつ、現行制度のもとでは男系男子だけで安定的な継承を続けることは難しいとして、女性天皇・女系継承・女性宮家を制度的に認める必要があるとしました。

鈴木教授と山折教授は、具体的な制度案の選択にすぐ入るというより、皇位継承を考える前提を示しました。鈴木教授は、天皇・皇室がそれぞれの時代の社会秩序を象徴してきたことを重視し、山折教授は、象徴天皇制を支えてきた血統原理とカリスマ原理を確認すべきだとしました。

分岐は、男系維持か、女系容認かに見える

8人の議論を最初に見ると、主な分岐は、男系を維持するか、女系まで制度的に開くかにあるように見えます。

大原教授と八木教授は、男系継承を維持すべきだと考えました。両者は、女系継承を認めることを、単なる継承順位の変更ではなく、皇統の正統性に関わる重大な変更と見ていました。

これに対し、高橋教授、横田教授、高森教授、所教授は、女性天皇、あるいは女系継承を認める方向で制度を考えました。ただし、その理由や制度設計は同じではありません。

高橋教授は、象徴天皇として国民に受け入れられるわかりやすい継承を重視し、長子優先を支持しました。横田教授は、憲法原理や平等原則との関係から、女系天皇と直系・長系継承を適合的だと考えました。高森教授は、女系も皇統に含まれ得るとして、皇位継承資格の制約を緩和すべきだとしました。所教授は、男系継承の重みを認めながらも、現行制度のままでは安定的な継承が難しいとして、女性天皇・女系継承・女性宮家を認める必要があるとしました。

また、鈴木教授と山折教授は、この対立を、制度案そのものではなく、その前提にある問題として捉えました。

鈴木教授は、天皇・皇室が社会秩序を象徴してきたことを踏まえ、今日の社会がどのような価値を選ぶのかという観点から考える必要を示しました。山折教授は、男系か女系かの前に、象徴天皇制を支えてきた血統原理とカリスマ原理が保たれるかを問いました。

したがって、8人の分岐は、単純に「男系派」と「女系容認派」に分ければ終わるものではありません。

制度案の違いの背後には、皇位継承を支える根拠をどこに見るかという、より深い違いがありました。

本当の違いは、制度案の背後にある根拠だった

8人の議論の違いは、制度案そのものよりも、その制度案を支える根拠にあります。

大原教授は、男系継承の歴史的重みを重視しつつ、議論の順序と手続を問題にしました。女系容認に入る前に、旧皇族の皇籍復帰や養子制度など、男系維持の方策を先に検討すべきだとし、皇室典範改正に皇室の意向が反映される仕組みも必要だと考えていました。

八木教授は、男系継承の正統性を重視しました。皇位が長く男系で継承されてきたという事実は、単なる過去の事実ではなく、現在の制度を考えるときにも尊重されるべき原理だと見ていました。このため、女系継承を認めることは、継承資格者を増やすだけではなく、皇位継承を支える原理そのものを変えることになります。

高橋教授は、象徴天皇としてのあり方と国民の支持を重視しました。天皇が国民とともにあり、国民から広く支持される存在であるなら、皇位継承もその感覚に合うものであるべきだという考え方です。この立場では、直系の女性皇族がいるのに男系男子に固執することは、かえって象徴天皇制の支持を弱めるおそれがあります。

横田教授は、憲法原理との適合性を重視しました。世襲による天皇制度は、国民主権や平等原則と緊張関係にあります。そのため、皇位継承制度を考えるときは、憲法原理からの例外をどこまで小さくできるかが重要になります。この立場では、男系男子に限定する制度は、憲法原理との関係で問題を持つことになります。

高森教授と所教授は、皇位継承の安定性を重視しました。ただし、単に継承資格者の数を増やせばよいという話ではありません。高森教授は、現行制度が皇位継承資格を歴史上例のないほど狭くしていると見たうえで、女系も皇統に含まれ得るとして、男系・男子の制約を緩和すべきだとしました。所教授は、男系継承の史実の重みを認めながら、側室所生の庶子継承や養子制度などを使えない現行制度では、男系男子だけで安定的に継承することは難しいと見ました。

鈴木教授は、天皇・皇室がその時代の社会秩序を象徴してきたという歴史的な視点を示しました。この立場では、皇位継承制度は、過去の形式をそのまま保存するだけではなく、その時代の社会が何を価値として選ぶかと結びついています。

山折教授は、象徴天皇制の根本にある血統原理とカリスマ原理を重視しました。この立場では、男系か女系か、女性天皇を認めるかどうかは、それだけで決まる問題ではありません。象徴天皇制の性格を支えてきた原理が保たれるかどうかが、判断の前提になります。

このように、8人の議論は、それぞれ異なる根拠から皇位継承を考えていました。

ある人は男系の正統性を重視し、ある人は制度の安定性を重視しました。ある人は国民の支持を重視し、ある人は憲法原理を重視しました。また、ある人は歴史の中で天皇・皇室が果たしてきた社会的役割を重視し、ある人は宗教的権威やカリスマ原理を重視しました。

皇統をどう見るかで、制度案は分かれた

皇位継承論の核心にあるのは、「皇統」をどう見るかです。

皇統を男系として理解するなら、制度案は男系維持に向かいます。皇統に女系も含まれ得ると理解するなら、女系継承を認める余地が出てきます。皇統だけでなく、国民の支持や憲法原理、象徴天皇制の性格を重視するなら、制度案はさらに別の方向から考えられます。

皇統の見方主な人物制度への帰結
皇統は男系で維持されてきた大原・八木男系維持策を優先する
女系も皇統に含まれ得る高森・所女系継承を制度的に開く
皇統だけでなく象徴性・承認も問題にする高橋・横田・鈴木・山折国民支持・憲法・象徴性から再検討する

大原教授と八木教授にとって、皇統の中心は男系でした。過去の女性天皇も男系の女性であり、女系天皇ではなかったという整理が、制度論の出発点になります。この理解では、女系継承は皇統の連続性を損なうおそれのある制度変更になります。

高森教授は、これとは異なる理解を示しました。高森教授は、女系も皇統に含まれ得ると見ました。その根拠として、歴史上の実例、養老令の規定、皇室典範の文言などを挙げました。皇統が男系だけを意味するなら、「皇統に属する男系の男子」という表現は重複することになります。高森教授は、そこに、皇統には男系と女系の両方が含まれ得るという理解を見ています。

所教授も、男系継承の史実の重みを認めつつ、「万世一系」の核心を、皇位が皇統に属する皇族によって継承され、一般国民が皇位を望まないことに見ていました。この理解では、重要なのは、皇位が皇族の外へ出ないことです。男系であることは重い史実ですが、それだけが唯一の条件ではありません。

高橋教授、横田教授、鈴木教授、山折教授は、皇統そのものだけでなく、その皇位継承が象徴天皇制として国民に受け入れられるか、憲法原理とどう調和するか、社会秩序や象徴性をどう支えるかを問題にしました。

ここに、8人の議論の大きな分かれ目があります。

皇統を男系の連続として見るのか。

女系も含み得る血統として見るのか。

それとも、皇統に加えて、国民の支持、憲法原理、象徴性、宗教的権威性を合わせて考えるのか。

この違いが、制度案の違いを生んでいました。

伝統をどう見るかでも、判断は分かれた

もう一つの大きな分岐は、「伝統」をどう見るかです。

伝統という言葉は、皇位継承論ではしばしば使われます。しかし、8人の議論を見ると、伝統の意味は一つではありません。

大原教授と八木教授にとって、伝統は守るべき原理でした。皇位継承が男系で続いてきたという歴史的事実は、それ自体が制度を支える重い根拠になります。この立場では、伝統は、現在の制度設計を制約する力を持ちます。

高橋教授にとって、伝統は時代ごとの手直しを経て続いてきたものでした。皇室制度は、時代の変化の中で調整されながら続いてきたのであり、現代の象徴天皇にふさわしい形へ改めることも、伝統を損なうものではないと考えられます。

所教授も、男系継承の史実の重みを認めながら、その維持が単純な直系嫡出男子継承だけで成り立っていたわけではないことを重視しました。庶子継承、中継ぎの女性天皇、傍系継承など、歴史上の皇位継承は、さまざまな臨機応変な仕組みによって支えられてきました。この立場では、伝統とは、固定された形式ではなく、継承を続けるための柔軟な工夫を含むものになります。

鈴木教授は、伝統を、さらに社会の側から捉えました。天皇・皇室は、その時代の社会秩序を象徴してきました。したがって、皇位継承制度も、過去からそのまま保存されるだけでなく、今日の社会、さらに次世代の社会がどのような価値を選ぶのかと関わります。この立場では、伝統とは、後の時代に選ばれ、支えられて残るものでもあります。

山折教授は、象徴天皇制の歴史的な安定性を、血統原理とカリスマ原理の結びつきから見ました。ここでの伝統は、単なる血筋だけではありません。践祚や即位の礼に表れる血統原理と、大嘗祭に表れるカリスマ原理が、象徴天皇制を支えてきたという理解です。

このように、伝統をどう見るかによって、制度案の評価は変わります。

伝統を固定された男系原理と見れば、女系継承は大きな断絶になります。

伝統を柔軟な制度運用の積み重ねと見れば、女性天皇や女系継承も、継承を続けるための選択肢になります。

伝統を時代に選ばれる象徴の形と見れば、国民の支持や社会の価値観を無視することはできません。

伝統を血統原理とカリスマ原理の結びつきと見れば、制度案だけでなく、皇位継承を支える儀礼や象徴性も問題になります。

天皇は、何によって国民統合の象徴たり得るのか

8人の議論を通して浮かび上がる最後の問いは、天皇は何によって国民統合の象徴たり得るのか、という問いです。

大原教授と八木教授は、男系の正統性を重視しました。男系で一貫してきた皇統の歴史こそが、天皇の権威や国民統合の基盤であるという考え方です。この立場では、男系の連続性が、象徴天皇制の根にあります。

高橋教授は、国民とともにある象徴天皇を重視しました。天皇は、国民と苦楽をともにし、国民の幸福を願う存在です。そのため、皇位継承のあり方も、国民に広く支持され、理解されるものでなければなりません。この立場では、象徴性は、歴史的な正統性だけでなく、現在の国民との関係によって支えられます。

横田教授は、憲法原理との調和を重視しました。戦後憲法のもとで天皇制度が存在する以上、皇位継承制度も、国民主権や平等原則との関係を避けて通ることはできません。この立場では、象徴性は、憲法の基本原理の中でどのように位置づけられるかによって問われます。

高森教授と所教授は、安定的な継承と皇統の理解を重視しました。天皇が象徴であり続けるためには、そもそも継承が安定して続かなければなりません。そのためには、現行制度が継承資格を狭くしすぎていないか、皇統を男系だけに限定すべきか、女性天皇や女系継承を認めるべきかが問題になります。

鈴木教授は、天皇・皇室が社会秩序を象徴してきたことを重視しました。天皇は、政治制度の中だけでなく、社会の価値観や秩序を映す存在でもあります。この立場では、天皇の象徴性は、その時代の社会と切り離して考えることができません。

山折教授は、血統原理とカリスマ原理を重視しました。天皇の象徴性は、血統の継承だけでなく、祭祀や儀礼を通じて受け継がれるカリスマ原理にも支えられているという理解です。この立場では、制度案の選択より前に、象徴天皇制を支える二つの原理が保たれるかが問われます。

こうして見ると、8人の議論は、皇位継承制度の技術的な設計だけをめぐるものではありませんでした。

男系の正統性。

皇統に属すること。

伝統の見方。

制度の安定性。

象徴天皇としての国民の支持。

憲法原理との調和。

社会秩序との関係。

祭祀を含む宗教的権威やカリスマ原理。

それぞれが、天皇を国民統合の象徴として支える根拠として示されていました。

まとめるとどうなるか

8人の議論は、単なる男系・女系の賛否ではありませんでした。

制度案の違いの背後には、皇位とは何を継ぐことか、伝統とは何か、天皇は何によって国民統合の象徴たり得るのか、という問いがありました。

男系を皇統の核心と見るなら、制度案は男系維持へ向かいます。女系も皇統に含まれ得ると見るなら、女性天皇や女系継承を制度的に開くことが選択肢になります。象徴天皇制を国民の支持や憲法原理、社会秩序、祭祀を含む宗教的権威によって支えられるものと見るなら、皇位継承論は、さらに広い問いになります。

2005年の有識者会議で行われた8人の識者インタビューは、皇位継承の結論を一つに決めるためだけの議論ではありませんでした。

むしろそこには、皇位継承論の地図がありました。

その地図には、男系、皇統、伝統、象徴、憲法、国民の支持という複数の道筋が描かれていました。どの道筋を重く見るかによって、たどり着く制度案は変わります。

だからこそ、2005年の識者インタビューを読む意味は、8人の賛否を並べることだけにあるのではありません。

8人の議論を通して、皇位継承を考えるとき、何を根拠にし、何を守り、何を変えるのかを考えることにあります。

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