『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』

この文書は、女性皇族の婚姻後の身分と皇室活動の維持という緊急課題に絞り、女性皇族本人の身分保持、配偶者・子の扱い、皇籍離脱後の活動支援を整理した内閣官房の論点整理です

『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』は、2012年10月5日に内閣官房が公表した文書です。

この文書は、2012年2月から7月にかけて行われた「皇室制度に関する有識者ヒアリング」を踏まえ、女性皇族の婚姻後の身分と、皇室の御活動の維持について、論点と具体的な方策を整理したものです。

具体的には、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、配偶者・子にも皇族身分を付与するⅠ―A案、女性皇族本人は皇族身分を保持するが配偶者・子には皇族身分を付与しないⅠ―B案、女性皇族が皇籍離脱後も公的立場で皇室活動を支援するⅡ案を整理しました。

2005年の『皇室典範に関する有識者会議報告書』が、安定的な皇位継承を正面から扱い、女子や女系の皇族にも皇位継承資格を広げる方向を示したのに対し、この2012年の『論点整理』は、皇位継承問題とは切り離し、緊急性の高い皇室活動維持と女性皇族の婚姻後の身分の問題に絞って検討しています。

その意味で、この文書は、2012年の政府側の到達点を示すとともに、のちの皇室制度論議で繰り返し現れる「女性皇族本人の身分保持」「配偶者・子の身分」「旧宮家・養子」「皇籍離脱後の活動支援」という論点の組み立てを確認するための重要な資料です。

皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理(平成24年10月5日)

どのような問題意識から出発したのか

この文書は、女性皇族が婚姻により皇族の身分を離れることで、将来、現在のような皇室活動の維持が困難になるという問題意識から出発しています。

現行の皇室典範12条では、皇族女子は、天皇および皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れるとされています。

2012年の『論点整理』は、この規定を前提にすると、未婚の女性皇族が一般男性との婚姻により順次皇籍を離脱し、皇族数が減少していくと見ました。

その結果、そう遠くない将来、現在のような皇室の御活動を維持することが困難になるおそれがあるとしました。

とくに、悠仁親王が即位する頃には、天皇の御活動を支え、摂政就任資格を有し、国事行為の代行が可能な皇族がほとんどいなくなる可能性があることを憂慮しています。

検討の対象はどこに絞られたのか

『論点整理』は、皇位継承問題とは切り離し、女性皇族の婚姻後の身分と皇室活動の維持に検討の対象を絞りました。

この文書は、皇位継承問題を正面から扱っていません。

むしろ、国民の中に多様な意見がある皇位継承問題とは切り離し、緊急性の高い女性皇族の婚姻後の身分と皇室の御活動の維持という問題に絞って検討する、と明記しています。

検討に当たっての基本的な視点としても、皇位継承制度の在り方の問題に影響しないことが掲げられました。

そのため、男系男子による皇位継承を規定する皇室典範1条には触れないことが大前提とされました。

旧11宮家の男系男子孫を養子や特別立法によって皇籍復帰させる案についても、現行典範1条の下では皇位継承資格の議論につながるため、今回の検討対象とはしないことが適当だと整理しています。

有識者ヒアリングの意見は、どのように整理されたのか

『論点整理』は、12人の意見を、象徴天皇制度と皇室活動の意義、皇族数減少への危機感、女性皇族の身分保持、尊称保持、旧宮家、養子、配偶者・子の身分などの論点に分けて整理しました。

『論点整理』は、2012年の有識者ヒアリングで出された主な意見を、提示した質問事項に沿って紹介しています。

象徴天皇制度と皇室活動については、権威と権力の分離、国民統合の象徴、国際社会からの信頼、祈る存在、弱者への寄り添いなどが挙げられました。

皇族数減少については、皇室活動維持が困難になること、悠仁親王を将来支える皇族が必要であること、女性皇族が婚姻により皇族数が減少していくことが問題であることが整理されました。

皇室活動維持の方策としては、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、当該女性皇族を当主とする宮家を創設できるようにする案が示されました。

一方で、一般男性との婚姻を前提とした女性宮家は前例がなく、皇室の質的変化につながるとして反対する意見も紹介されています。

さらに、内親王・女王の尊称使用、旧11宮家の復帰、皇室典範の養子禁止規定の見直し、配偶者・子の身分、対象となる女性皇族の範囲、婚姻環境への配慮なども論点として整理されました。

検討に当たっての基本的な視点は何だったのか

『論点整理』は、象徴天皇制度との整合性、皇位継承制度への非影響、皇室の規模と国民負担、女性皇族本人の意思と婚姻環境への配慮を基本的な視点としました。

第一は、皇室の伝統を踏まえながら、これまで形づくられてきた象徴天皇制度に整合的なものとすることです。

女性皇族の婚姻後の身分の在り方を検討する場合も、象徴天皇制度の下で、天皇を支え、皇室と国民をつなぐ皇族の活動と整合する必要があるとされました。

第二は、皇位継承制度の在り方の問題に影響しないものとすることです。

このため、皇室典範1条には触れないことが大前提とされ、旧11宮家男系男子孫の皇籍復帰案も、今回の検討対象から外されました。

第三は、皇室の適正な規模と国民負担への配慮です。

新しい制度の対象範囲は、皇室としての一体性に留意しつつ、適正な範囲にとどめ、財政支出を抑制する必要があるとされました。

対象となる女性皇族の範囲については、天皇と血縁関係の近い内親王に限定することが考えられるとしています。

第四は、女性皇族の意思の反映と婚姻環境への配慮です。

新制度を一律に適用するのではなく、一般男性と婚姻する場合に選び得る選択肢の一つと位置づけ、本人の意思を反映できる仕組みにすることが適当だとしました。

また、婚姻の障害とならないようにし、婚姻後の家庭環境に支障が生じないようにすることも求めています。

具体的な方策は、どのように分けられたのか

『論点整理』は、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持する案と、皇籍離脱後も皇室活動を支援してもらう案の二つに大別し、前者をさらに配偶者・子に皇族身分を付与する案と付与しない案に分けました。

『論点整理』は、具体的な方策を大きく二つに分けました。

第一は、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案です。

第二は、女性皇族に皇籍離脱後も皇室の御活動を支援してもらうことを可能とする案です。

さらに、第一の案は、配偶者および子に皇族としての身分を付与するかどうかで、二つに分かれます。

つまり、制度案は次の三つです。

内容 位置づけ
Ⅰ―A案 女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、配偶者と子にも皇族身分を付与する 家族全体が皇族となるため制度として簡明だが、歴史上の前例はない
Ⅰ―B案 女性皇族は皇族身分を保持するが、配偶者と子には皇族身分を付与しない 女系天皇への接続を避けやすいが、家族内で身分差が生じる
Ⅱ案 女性皇族は皇籍離脱後、国家公務員など公的立場で皇室活動を支援する 皇族数減少には歯止めをかけられないが、外から活動支援は可能

この三分類が、2012年の『論点整理』の中心です。

Ⅰ―A案は、どのような案だったのか

Ⅰ―A案は、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持し、配偶者と子にも皇族身分を付与する案です。

この案では、女性皇族が一般男性と婚姻後も、本人の意思により皇族としての身分を保持できます。

さらに、配偶者や子にも皇族としての身分が付与されます。

一家全体が皇族として処遇されるため、当主である女性皇族単独の活動だけでなく、夫妻としての活動も可能となります。

また、世帯内で身分の違いが生じないため、制度としても簡明です。

一方で、この案には、将来の女系天皇誕生につながるおそれがあるのではないか、宮家の役割は皇位継承資格者の確保にあるのではないか、という反対意見があると整理されています。

『論点整理』は、皇室典範1条を見直さない以上、女性皇族の子に皇位継承資格は生じないとしつつ、懸念にも配慮し、子は婚姻すると皇族の身分を離れることが適当だとしました。

Ⅰ―B案は、どのような案だったのか

Ⅰ―B案は、女性皇族は婚姻後も皇族身分を保持する一方、配偶者と子には皇族身分を付与しない案です。

この案では、女性皇族本人は、一般男性との婚姻後も、本人の意思により皇族としての身分を保持します。

しかし、配偶者と子は皇族にはなりません。

この案は、江戸時代までは女性皇族が皇室以外の者に嫁いでも皇族身分を失わないのが通例だったことなどから、比較的受け入れやすいとの意見があるとされました。

また、配偶者や子には皇族費が支給されないため、Ⅰ―A案よりも国庫負担は軽くなります。

一方で、一つの世帯内で、妻は皇族、夫や子は一般国民という異なる身分になります。

そのため、戸籍、夫婦の氏、家族間の財産授受、宮内庁の補佐体制などについて、適切な措置が必要になると整理されました。

Ⅱ案は、どのような案だったのか

Ⅱ案は、女性皇族が皇籍離脱後も、公的な立場で皇室活動を支援できるようにする案です。

有識者ヒアリングでは、皇族の身分を付与するのではなく、内親王・女王の尊称使用や、宮内庁の皇室御用掛のような役職によって皇室活動を支えてもらう案も示されました。

『論点整理』は、旧皇室典範44条にあった内親王・女王の称号保持を、そのまま現行皇室典範に取り入れることは困難だと判断しました。

理由は、旧皇室典範の規定が華族制度などの身分制を前提にしていたこと、現行憲法の法の下の平等との関係で疑義が生じかねないこと、皇族という特別な身分をあいまいにする懸念があることです。

ただし、女性皇族が皇籍離脱後も、国家公務員として公的な立場を保持し、皇室活動の支援に関わるような方策は検討に値するとしました。

また、「皇室輔佐」や「皇室特使」などの新たな称号を、御沙汰により賜ることは考えられないことではないとも述べています。

『論点整理』は、何を結論に近づけたのか

『論点整理』は、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持できるようにする制度改正を検討すべきだという方向を示しました。

『論点整理』は、象徴天皇制度の下で、皇族数の減少にも一定の歯止めをかけ、皇室活動の維持を確かなものとするためには、女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族身分を保持し得る制度改正について検討を進めるべきだとしました。

つまり、Ⅰ―A案とⅠ―B案のどちらを選ぶかはさらに検討が必要としつつ、女性皇族本人の婚姻後の身分保持という方向は、制度改正の中心に置かれています。

一方で、いわゆる尊称保持案については、そのまま実施することは困難だとしました。

ただし、Ⅱ案のように、女性皇族が皇籍離脱後も引き続き皇室活動の支援に関わる仕組みを設けることは可能と考えられ、併せて検討する必要があるとしました。

何が残されたのか

『論点整理』は、女性皇族本人の身分保持を中心に制度案を整理しましたが、配偶者・子の身分、皇位継承問題との関係、安定的な皇位継承の不安は未決のまま残しました。

『論点整理』は、Ⅰ―A案とⅠ―B案の双方について長所と短所を整理しました。

しかし、どちらを採るべきかを最終的に決めたわけではありません。

配偶者と子に皇族身分を付与するのか、付与しないのかは、さらに検討すべき選択肢として残されました。

また、皇位継承問題とは切り離すことを大前提としながらも、文書の末尾では、悠仁親王以外に次世代の皇位継承資格者がいないことに触れ、安定的な皇位継承を確保するという意味では将来の不安が解消されているわけではないと述べています。

そのため、安定的な皇位継承を維持することは、国家の基本に関わる事項として、国民各層の議論を踏まえながら、引き続き検討していく必要があるとしました。

つまり、『論点整理』は、皇室活動維持のための制度案を整理しながらも、皇位継承問題そのものは後に残した文書でした。

まとめるとどうなるか

『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』は、女性皇族の婚姻後の身分と皇室活動の維持という緊急性の高い問題に絞り、2012有識者ヒアリングの議論を整理した内閣官房の文書です。

この文書は、皇位継承問題とは切り離し、皇室典範1条には触れないことを大前提としました。

そのうえで、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持する案を中心に、配偶者・子に皇族身分を付与するⅠ―A案、付与しないⅠ―B案、皇籍離脱後も公的立場で皇室活動を支援するⅡ案を整理しました。

『論点整理』は、女性皇族本人の身分保持という方向を制度改正の中心に置きました。

しかし、配偶者・子の身分をどうするか、皇位継承問題とどこまで切り分けられるか、安定的な皇位継承の不安をどう扱うかは、未決の論点として残しました。

この意味で、2012年の『論点整理』は、現在の皇族数確保・皇室制度論議を考えるうえで、女性皇族本人の身分保持、配偶者・子の扱い、皇籍離脱後の活動支援、皇位継承問題の先送りという構図を確認するための重要な基礎資料です。

書誌情報

文書名:皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理

作成主体:内閣官房

公表年月日:2012年10月5日

掲載:首相官邸ホームページ

皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理(平成24年10月5日)

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